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糖尿病性腎症、腎尿細管RA系を介した新規発症・進展メカニズムを発見-横浜市大ほか

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2022年03月04日 AM11:15

RA系の過度な抑制は副作用を増やすため腎保護効果の全容解明が重要

横浜市立大学は3月3日、糖尿病性腎症における腎尿細管レニン-(RA)系を介した新しいメカニズム(-糸球体連関における免疫細胞マクロファージの機能スイッチングによる糸球体障害の発症・進展メカニズム)を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科循環器・腎臓・高血圧内科学の鈴木徹医師(大学院生)、涌井広道准教授、小豆島健護助教、田村功一主任教授らの研究グループが、同研究科免疫学の田村智彦主任教授、黒滝大翼客員准教授、東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科の春原浩太郎助教(横浜市立大学客員研究員)、横尾隆主任教授らとの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Kidney International」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

慢性腎臓病の患者数は年々増加傾向にあり、日本の成人の約8人に1人は慢性腎臓病であると推定され、新たな国民病として位置づけられている。糖尿病性腎症は、糖尿病の最も重篤な合併症で、病気の進行とともに腎糸球体が障害され、最終的には腎代替療法(透析)が必要となる腎疾患。慢性腎臓病の主たる原因であり、糖尿病患者の増加も影響し、糖尿病性腎症は透析導入に至る原因の約半数を占め第1位となっている。透析導入患者だけでなく、維持透析患者においても糖尿病性腎症患者が占める割合が年々大きくなっている。また、糖尿病性腎症による透析患者は慢性腎炎による透析患者よりも予後が悪いとされている。

糖尿病患者は全身のRA系が亢進しており、腎臓の糸球体内圧が上昇することでアルブミン尿が出現し、腎機能障害が進行していく。したがって、特にアルブミン尿の多い糖尿病性腎症を有する患者ではRA系阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬など)を使用することにより、糸球体内圧の上昇を抑えて腎保護効果が得られると考えられている。一方で、RA系を強力に阻害すること(高用量や2剤以上での使用)は、むしろ腎障害、高カリウム血症、低血圧といった副作用を増加させる可能性があるため、治療上の大きな制約になってきた実情があり、RA系阻害による腎保護効果に関するさらなるメカニズム解明が喫緊の課題だった。

RA系の活性抑制因子ATRAPに着目、糖尿病性腎症との関連を検討

これまでに研究グループは、RA系受容体結合タンパク質であるATRAP/Agtrapの研究を進めており、ATRAPはアンジオテンシンII受容体(AT1受容体)に結合することでRA系の活性化を抑制し、AT1受容体の生理的シグナルには悪影響を与えずに、臓器障害と関連したシグナルのみ選択的に抑制できる可能性を見出してきた。今回の研究では、RA系の活性抑制因子であるATRAPに着目し、腎臓の尿細管におけるRA系の亢進が、糖尿病性腎症における糸球体障害にどのような影響を与えるか(腎尿細管-糸球体連関)、そのメカニズムも含めて検討した。

ATRAP欠損マウス、尿細管RA系の活性亢進とM2マクロファージ減少で腎症悪化

研究グループはまず、野生型マウスにストレプトゾトシンを投与し高血糖が持続する状態(1型糖尿病)にした。すると、腎尿細管のATRAP発現が減少するとともに腎RA系が活性化することが確認された。次に野生型マウスと全身のATRAPを欠損させたマウス(ATRAP全身性欠損マウス)に同様の手法を用いて糖尿病を起こし、腎臓の変化を観察した。その結果、糖尿病ATRAP全身性欠損マウスでは、血圧や血糖値などは糖尿病野生型マウスと同等だったが、尿細管RA系の活性はより亢進しており、糖尿病性腎症の糸球体障害(アルブミン尿、糸球体腫大、足細胞の脱落など)の増悪とともに腎尿細管間質でのM2(抗炎症作用などを有する善玉免疫細胞)の減少を認めた。

腎尿細管M2マクロファージは糖尿病性腎症を改善

この現象は、尿細管特異的にATRAPを欠損させたマウスでも観察された。そこで、マウスの骨髄から抽出して培養したM2マクロファージを糖尿病ATRAP全身性欠損マウスに投与したところ、野生型糖尿病マウスと同程度まで糖尿病性腎症の糸球体障害が改善した。そのメカニズムとして腎尿細管RA系が尿細管間質の免疫マクロファージの機能スイッチングを介して、二次的に腎糸球体障害に影響を与える「腎尿細管-糸球体連関」が存在することが明らかになった。

ATRAPが糖尿病腎症の新たな治療法として期待される

今回の研究により、糖尿病性腎症に対するRA系阻害の腎保護効果の新たなメカニズムとして、腎尿細管RA系の過剰な活性化が糸球体障害を増悪させるという腎尿細管-糸球体連関の存在が示された。腎尿細管RA系が腎尿細管間質での「免疫マクロファージのスイッチング」を介して糸球体障害の進展に関与するメカニズムは、今回初めて明らかになったことだ。また、今回の結果は、腎尿細管RA系が糖尿病性腎症の進行に深く関わっていることを示しており、今後、糸球体だけでなく腎尿細管RA系もターゲットにした治療法の開発が糖尿病性腎症を克服するうえで重要であることを示唆している。

糖尿病性腎症において既存薬によるRA系の過度な抑制は、むしろ副作用が増えることが報告されている。RA系の生理的シグナルには悪影響を与えずに、臓器障害と関連したシグナルのみ選択的に抑制できるATRAPは、より効率的で安全な治療法となる可能性があり、「腎尿細管に着目したATRAP活性化療法は糖尿病性腎症の新規治療戦略として期待される」と、研究グループは述べている。

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