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涙液に含まれる極長鎖アルコールがドライアイ防止に重要、マウス実験で解明-北大

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2022年03月04日 AM11:45

涙液の極長鎖アルコールを産生する酵素「Far2」を同定、眼に及ぼす影響を検証

北海道大学は3月3日、涙液に含まれる長いアルコール()がドライアイ防止に重要であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院の木原章雄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「FASEB Journal」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脂質の役割の一つに角膜の健康維持・ドライアイ防止がある。一般的に涙液は水層だけから構成されていると考えられがちだが、実は水層の外側に脂質からなる油層が存在し、水層からの水分の蒸発の防止、表面張力の低下、適度な粘弾性(硬さと柔らかさ)の付与、角膜表面の潤滑化などの役割を果たしている。ドライアイは涙液量が減少するタイプ(涙液減少型)と水分の蒸発が亢進するタイプ(水分蒸散亢進型)に大きく分類され、前者が水層の異常、後者が油層の異常に起因する。涙液油層に存在する脂質は、まぶたの裏側にあるマイボーム腺から分泌されるため、総称して「マイバム脂質」と呼ばれる。マイバム脂質はまぶたの縁に点状に並ぶ開口部から分泌されるが、水分蒸散亢進型ドライアイ患者の多くで、この開口部に詰まりが生じる。

アルコールとは、水酸基(-OH:酸素原子と水素原子から成る)をもつ分子の総称。また、カルボン酸とは、カルボキシ基(-COOH:炭素原子1つ、酸素原子2つ、水素原子1つから成る)をもつ分子を指す。脂質とは水に溶けない有機化合物だが、炭化水素の部分が長い(炭素数が増加)ほど水に溶けなくなるので、脂質は一般的に長い炭化水素を持っている。炭化水素中の炭素数が11~20のものを長鎖、21以上のものを極長鎖と呼び、それらに水酸基・カルボン酸がついたものが長鎖アルコール・長鎖脂肪酸、極長鎖アルコール・極長鎖脂肪酸だ。涙液油層の脂質(マイバム脂質)には極長鎖アルコールを分子内にもつ分子が多く存在する。しかし、このような極長鎖アルコールが、どのような酵素によって作られるのかは不明だった。

研究グループは、この酵素の探索を行い「Far2」という酵素が関与することを明らかにした。さらに、Far2が欠損したマウスを人工的に作り出し、極長鎖アルコールがないことが眼にどのような悪影響を及ぼすかについて調べた。

Far2は炭素数26の極長鎖アルコールを産生すると判明

Far(脂肪族アシルCoA還元酵素:Fatty acyl-CoA reductase)は、活性化した脂肪酸「アシルCoA」からアルコールを作る還元反応を触媒する。ヒトにはFar1とFar2という2つのFarが存在するが、どちらがマイバム脂質中の極長鎖アルコールを産生するかは不明だった。そこで研究グループは、細胞にFar1またはFar2をたくさん作らせる系を構築し、その細胞中で産生された長鎖と極長鎖アルコールの量を測定した。

その結果、Far1が主に長鎖アルコール、Far2が極長鎖アルコールを産生することが判明した。特に、炭素数26の極長鎖アルコールが、Far2によって多く産生されたという。

Far2 KOマウスは重篤なドライアイを発症、マイバム脂質が液体ではなく個体・半液体

次に、Far2がマイバム脂質中の極長鎖アルコールを産生しているかを明らかにするため、Far2遺伝子KOマウスを作成した。Far2 KOマウスは常に目を閉じ気味であり、頻繁に瞬きをするようになった。野生型マウスのマイボーム腺では開口部に詰まりが観察されないのに対し、Far2 KOマウスでは白い歯磨き粉状の詰まりが観察された。これは、水分蒸散亢進型ドライアイの患者でよく見られる症状とよく似ているという。また、マイバム脂質の融点は、野生型マウスでは体温付近であったのに対し、Far2 KOマウスでは49℃と大幅に上昇していた。つまり、野生型マウスではマイバム脂質が液体として存在しているのに対し、Far2 KOマウスでは融点の上昇によって融けにくくなる、つまり、固体・半液体として存在していることが明らかになった。さらに、Far2 KOマウスで眼表面からの水分蒸散量の増加と、角膜の傷害の亢進が観察された。これらの結果から、Far2 KOマウスが重篤なドライアイを発症していることが明らかになった。

アルコールとカルボン酸は結合してワックスエステルとなる。この結合(-COO-)のことをエステル結合と呼び、分子内に1つエステル結合を持つものを「ワックスモノエステル」、2つ持つものを「ワックスジエステル」と呼ぶ。ワックスジエステルはその結合の仕方によって1型と2型、さらにエステル結合の位置によってそれぞれα型とω型に分けられる。ワックスモノエステルは、マイバム脂質中の主要な脂質の一つ。ワックスジエステルは、ワックスモノエステルほど量が多くはないが、少なくともワックスジエステル1ω型、2α型、2ω型がマイバム脂質中に存在している。研究グループは、これらのワックスエステル類の量を調べ、Far2 KOマウスでワックスモノエステル、ワックスジエステル(1ω型、2α型、2ω型)のいずれもが消失、あるいは量が大きく低下していることを見出した。以上のことから、Far2 KOマウスでは極長鎖アルコールが作られないため、極長鎖アルコールを原料として作られるワックスモノエステルとワックスジエステル(1ω型、2α型、2ω型)も作ることができなくなっていることが判明。また、これらの結果から、極長鎖アルコールの産生がドライアイ防止に極めて重要であることが明らかとなった。ワックスエステル類の中でもワックスモノエステルは、マイバム脂質中で量が多く、融点が低いため、マイバム脂質の固化を防いでいると考えられるという。

涙液油層をターゲットにした新たなドライアイ治療薬の開発に期待

今回の研究成果により、涙液油層を形成するマイバム脂質の産生の分子機構とドライアイ防止における極長鎖アルコールの重要性が明らかにされた。「ドライアイの主要な原因は油層の異常だが、これを改善する根本治療薬は開発されていない。本研究成果によって、涙液油層をターゲットにした新たな治療薬の開発が進むことが期待される」と、研究グループは述べている。

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