長鎖ノンコーディングRNAから産生されるタンパク質のさらなる探索が求められていた
九州大学は3月1日、精巣特異的に発現する長鎖ノンコーディングRNAからタンパク質が産生される可能性を網羅的に探索し、Gm9999遺伝子座から2つの小タンパク質である「Kastor」と「Polluks」が産生されることを突き止めたと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授、松本有樹修准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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長鎖ノンコーディングRNAはタンパク質を産生しないと定義されている。長鎖ノンコーディングRNAの多くは、組織特異的な発現パターンを示し、特に精巣では多くの種類の長鎖ノンコーディングRNAが発現することが知られている。精巣特異的に発現する長鎖ノンコーディングRNAは精子形成の間にさまざまな発現パターンを示すことから、精子形成に重要な役割を担っていると考えられていた。しかし、精巣における長鎖ノンコーディングRNAの機能は、一部を除いてほとんどわかっていなかった。
近年、中山敬一主幹教授らの研究グループを含む複数のグループから、一部の長鎖ノンコーディングRNAは実際に機能的な小さなタンパク質を産生していることが報告されていた。多くの長鎖ノンコーディングRNAが精巣特異的に発現することから、精巣には隠れたタンパク質が存在する可能性が高く、その探索を通して、精子形成の分子機構を解明することを目指して研究を行った。
Gm9999は1つの遺伝子座から2種類の小さなタンパク質を産生する可能性
精巣特異的に発現することが知られている長鎖ノンコーディングRNAについて、タンパク質が産生される可能性を探索した結果、Gm9999遺伝子を候補の遺伝子として見出した。興味深いことに、Gm9999は1つの遺伝子座から2種類の小さなタンパク質を産生する可能性が示唆され、これらのタンパク質をKastorとPolluksと名付けた。
KastorとPolluksがVDAC3依存性のミトコンドリア鞘形成に重要な役割を持ち、雄の生殖機能に必要
次に、Kastorタンパク質とPolluksタンパク質が産生されるのかを確かめるため、KastorとPolluksタンパク質の末端にタグ配列をもつノックインマウスを作製。発現解析からその存在を明らかにした。さらに、KastorとPolluksの機能を推定するため、ノックインマウスを用いてKastorとPolluksの結合タンパク質を探索。免疫沈降とプロテオミクス解析の結果、KastorとPolluksは、ともに電位依存性アニオンチャネル(VDAC)と結合していることが明らかになった。
VDAC3欠損マウスは、精子ミトコンドリア鞘の形態異常により、精子の運動性が低下し、雄性不妊になることが知られている。そこで、KastorとPolluksの両方を欠損するマウスを作製したところ、VDAC3欠損マウスと同様に、雄性不妊を示した。さらに、電子顕微鏡を用いてこれらの精子ミトコンドリア鞘を観察したところ、KastorとPolluksの両方を欠損する精子ミトコンドリアは、明らかな形態異常を示していたという。この形態異常はVDAC3を欠損した精子ミトコンドリアと非常に類似しており、この形態異常により、精子の運動性が低下することで、不妊につながることが明らかになった。
以上の結果から、KastorとPolluksがVDAC3依存性のミトコンドリア鞘形成に必須な役割を果たし、それが雄の生殖機能に必要であることが示唆された。
精巣の隠れたタンパク質の同定・解析が不妊症の原因解明や治療につながる可能性
今回の研究成果により、これまで長鎖ノンコーディングRNAと思われていたGm9999から、実はKastorとPolluksという2種類の小さなタンパク質が産生され、それらが精子ミトコンドリアの形態制御を担っていることが明らかにされた。
「KastorとPolluksは、ともにヒトを含む哺乳類に広く保存されており、これらの生物では、共通した機能を持つと考えられる。精巣特異的な遺伝子の機能解析は、男性不妊の原因解明だけでなく、これらを標的とした避妊薬の開発への展開が期待される」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果