短時間の熱ストレスと運動の組み合わせがテストの正答率に及ぼす影響の定量的評価などを実施
筑波大学は2月22日、暑い屋外を短い時間歩くことが、直後のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすのか明らかにするために、大規模な被験者実験を実施した結果を発表した。この研究は、同大計算科学研究センターの日下博幸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Building and Environment」に掲載されている。
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熱ストレスのかかる室内での長時間歩行が、仕事や学習のパフォーマンスを低下させることが、先行研究で示されている。一方、日本のオフィスワーカーや学生は、夏場、空調の効いた室内と暑さの厳しい屋外との間を行き来することが多く、暑い屋外での短時間の歩行が、その後の室内での仕事や学習のパフォーマンスに影響を及ぼすと考えられる。
そこで今回の研究では、実際の屋外・室内を利用した大規模な被験者実験を実施し、簡単な足し算テストの正答率によって、仕事や学習のパフォーマンスの変化を評価。実験は、2016年の8月2、5、6、8、25、27、29日の正午前後に、筑波大学(2、8日)、立正大学(5、6日)、東邦大学(25、27、29日)のキャンパス内で実施した。実験に参加した被験者96名(男性65名、女性31名)のほとんどが大学生または大学院生だった。
今回の研究の新規性として、短時間の熱ストレスと運動の組み合わせがテストの正答率に及ぼす影響を定量的に評価したこと、これまで行われてきた同様の実験は人工気候室内で実施されていたのに対し、本実験は実際の屋外・室内で実施したこと、96人という大人数の被験者が参加したこと、の3点が挙げられる。また、解析にあたっては、被験者の性別と睡眠時間も考慮。これは、熱ストレスに対するテスト正答率の変化は性別によって異なること、睡眠不足が熱ストレス耐性とテスト正答率を低下させることが知られているためだとしている。
熱ストレスと歩行の組み合わせ、その後のパフォーマンスに影響
結果、屋外の暑熱環境に着目した解析では、熱中症厳重警戒日(暑さ指数:wet-bulb globe temperatureが28℃以上31℃未満の日)に屋外を15分間歩くと、直後のテスト正答率の中央値が歩行前と比べて3.6%低下した(有意水準5%)。
一方で、熱中症厳重警戒日であっても、屋外で15分間座っていた被験者のテスト正答率は変化しなかった。この結果は、熱ストレスと歩行の組み合わせが、その後のパフォーマンスに影響したことを意味している。
睡眠不足の男性、暑い屋外歩行でその後の仕事や学習パフォーマンス低下の可能性
睡眠時間に着目した解析では、睡眠時間が短くなると歩行後のテスト正答率がより低下しやすいことが示された(相関係数:0.48、決定係数:0.23)。この傾向は、睡眠時間が5時間未満の被験者でより顕著であり、女性よりも男性に強く見られることもわかった。
実際、睡眠時間5時間未満の男性被験者が熱中症厳重警戒日に屋外を歩くと、直後のテスト正答率が9.1%も低下した。つまり、睡眠不足の男性が暑い屋外を歩くと、その後の仕事や学習のパフォーマンスを大きく低下させる可能性がある。
また、低下したテスト正答率は、屋内に戻ってから50分で元の水準に戻ることも確認された。今回の研究結果は、日本におけるオフィスワーカーの生産性や学生の学習効率を向上させるために役立つと期待される。
今後も、複合的な解析が必要
暑い屋外での短時間歩行がその後の仕事や学習のパフォーマンスに及ぼす影響については、それに対する緩和策の評価やパフォーマンスが低下する最短歩行時間の調査など、複合的な解析が必要であり、今後さらに研究を進めていく予定だと、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL