医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 子宮内膜、一見正常でも加齢や月経回数に伴ってがん関連遺伝子変異が蓄積-新潟大ほか

子宮内膜、一見正常でも加齢や月経回数に伴ってがん関連遺伝子変異が蓄積-新潟大ほか

読了時間:約 3分26秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年02月22日 AM11:15

ヒト子宮内膜の「地下茎」構造と遺伝子変異の関係は?

新潟大学は2月17日、月経時に剥がれない子宮内膜基底層の内膜腺管の地下茎構造内にがん関連遺伝子変異が蓄積し、地下茎を介して子宮内で領域を広げていくことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の榎本隆之教授、吉原弘祐講師、須田一暁助教、同大医歯学総合病院総合周産期母子医療センターの山口真奈子特任助教、佐々木研究所腫瘍ゲノム研究部の中岡博史部長、国立遺伝学研究所人類遺伝研究室の井ノ上逸朗教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトの子宮内膜は、月経によって毎月剥離・再生を繰り返すユニークな組織。子宮内膜を構成している腺管上皮は子宮内膜関連疾患(子宮内膜症、子宮腺筋症、不妊症の一部)や子宮体がんの発生母地であり、子宮内膜腺管の異常は女性の生涯にわたって影響を及ぼす。研究グループは先行研究で、病理学的に「正常」な子宮内膜腺管組織に多種多様ながん関連遺伝子変異があること、および、腺管1本は同じ遺伝子を持った細胞から構成されるモノクローナルな構造であることを明らかにした。しかし、変異が加齢や月経の繰り返しによって蓄積するのか、変異を持った腺管が子宮内膜の中でどのように分布するのかについては不明だった。

また、研究グループは別の先行研究で、ヒト子宮内膜の3次元構造を観察し、腺管が基底層(月経の時に剥離せずに残存する部分)で網目のような「地下茎」構造を有することを突き止めたが、この地下茎構造と遺伝子変異がどのように関わるのかはわかっていなかった。

腺管の遺伝子変異量は年齢等に伴って増加、がん関連遺伝子変異には強い自然選択圧

今回、研究グループは、子宮内膜に異常のない婦人科疾患(子宮筋腫・卵巣嚢腫など)のために手術を受けた女性から研究参加の同意を得て、子宮内膜組織を採取して腺管を1本1本に分離し、腺管ごとに遺伝子を調べた。

まず、腺管のがん関連遺伝子変異が加齢や累積月経回数に伴って蓄積するのかを調べるために、21~53歳の女性32名より採取した891本の正常内膜腺管のゲノム解析を行った。その結果、半数以上の腺管が何らかのがん関連遺伝子変異を有しており、中でも、既報にもあるPIK3CAやKRAS変異を有する腺管がそれぞれ15.6%、10.9%の頻度で見つかった。腺管が有する遺伝子変異の量は、年齢や累積の月経回数に伴って増えることもわかった。また、遺伝子変異の種類に着目して解析を行ったところ、婦人科がんに関連する遺伝子変異に特に強い自然選択圧がかかっており、その遺伝子変異が腺管の生存に有利に働いている可能性があることがわかった。

同じ変異を有する腺管群は子宮内膜内でクラスター形成

次に、生存に有利な遺伝子変異を持った腺管が、子宮内膜でどのように分布するのかを調べるために、子宮摘出手術を受けた4名の女性(38~50歳)の子宮内膜を2.5~5mm四方に区域分けし、区域ごとに3~20本の腺管を採取して、腺管の位置情報を加味した上でゲノム解析を行った。その結果、同じ起源の遺伝子変異を持つ複数の腺管が、隣接する区域にまたがって分布し、クラスターを形成していることがわかった。

同じ地下茎を共有する腺管群はモノクローナルだった

子宮内膜は月経のたびに剥がれ落ちる組織であるため、どうやって腺管はそのクラスター領域を拡大していくのだろうか。この謎を解明するために、研究グループは子宮内膜腺管の3次元構造に着目した。研究グループは先行研究で、子宮内膜の3次元撮影に成功し、月経の際に剥がれ落ちずに残る基底層の腺管に網目のような地下茎構造があることを突き止めている。

今回は、この地下茎を介して腺管が領域を拡大しているのではないかと考え、地下茎とそこから連続して立ち上がる腺管を別々に採取してゲノム解析を行った。具体的には、40歳代女性の摘出子宮の子宮内膜から連続病理切片を作成し、腺管の地下茎構造と地下茎から分岐する腺管の連続性を確認したうえで、レーザーマイクロダイセクションによってそれぞれの腺管上皮を採取して遺伝子解析を行った。

その結果、同じ地下茎を共有する腺管群はすべて同じ遺伝子変異プロファイルを有するモノクローナルな集団であることが明らかとなった。子宮内膜腺管の3次元的な連続性と、遺伝子変異プロファイルが完全に一致しており、地下茎が変異を有する腺管の領域拡大に重要な役割を果たしていることがわかった。

子宮内膜が関係する病態の解明や予防法確立に期待

女性の社会進出による晩婚化や少子化により、現代女性の生涯に経験する月経回数は100年前の10倍と言われている。月経回数の増加に伴って、不妊症を引き起こす子宮内膜症などの子宮内膜関連疾患に悩む女性が増えており、女性ヘルスケアにおける大きな問題となっている。

今回の研究によって、正常子宮内膜でがん関連遺伝子変異が加齢や月経回数の積み重ねによって蓄積し、変異腺管が子宮内で領域を拡大するメカニズムの一端が明らかになった。今回の発見について研究グループは、「今後、がん関連遺伝子変異を持つ正常な内膜に、どのような因子が加わることで子宮内膜症や子宮体がんを発症するのか、ホルモン治療によってがん関連遺伝子の蓄積や広がりは軽減されるのかといった疑問を解明するための大きなヒントになる」とし、「将来、女性にとって最適な月経のコントロール方法を提案し、不妊症や子宮体がんの効果的な予防法を確立することで女性の生活の質の向上に貢献できると期待される」と、展望を述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大