エコチル調査参加の親子約10万組を対象に
東北大学は2月15日、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参加した約10万組の親子を対象に、妊婦の血液中の鉛濃度と生まれた子どもの男女比(出生性比)との関連について解析した結果、妊婦の血液中の鉛濃度が高くなることと男児の出生割合が大きくなることとの関連が示されたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の龍田希准教授、エコチル調査宮城ユニットセンター(東北大学)の仲井邦彦名誉教授ら、国立環境研究所の研究グループによるもの。研究成果は、「Science of Total Environment」に掲載されている。
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子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにすることとしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。
一般的に、女児100人に対する男児の出生数は、104~107人と言われており、男児の方が多く生まれる。近年、出生性比は世界的にみて低下傾向にあり、男児の出生数が減少している。そのため出生性比に影響を及ぼす要因の検討が進められており、その要因の1つとして化学物質や重金属のばく露が指摘されている。鉛は、流産や早産、低体重、高血圧などに影響を及ぼすことが知られているが、出生性比への影響を調べた研究は少なく、限られた報告しか存在しない。
そこで、今回研究グループは、エコチル調査の登録者を対象に、妊婦の血液中の鉛濃度とその妊婦から生まれた子どもの出生性比との関連を解析した。
妊婦の血液中鉛濃度「高」と男児出生割合「大」との関連示す
今回の研究では、エコチル調査参加の10万4,602組の親子のうち、データの揃っている8万5,171組を対象に解析を実施。生まれた子どものうち男児の割合は51.2%だった。
妊婦の血液中の鉛濃度の中央値は5.85ng/g。この血液中の鉛濃度と、出生性比との関連を調べたところ、妊婦の血液中の鉛濃度が高くなることと、男児の出生割合が大きくなることとの関連が示された。妊婦の血液中の鉛濃度が高いほど男児が生まれる割合が大きくなり、鉛濃度が低いほど女児が生まれる割合が大きくなることが示されたとしている。
鉛が出生性比に及ぼす影響、メカニズム解析を含めて今後の研究課題に
今回の研究では、妊婦の血液中の鉛濃度が高くなることと男児の出生割合が大きくなることとの関連が示された。環境中の鉛濃度は人の鉛ばく露と密接に関連しているとされ、有鉛ガソリンの規制などが進むとともに大気中の鉛濃度は低下し、それに伴い人の血液中の鉛濃度も低下していることが諸外国のモニタリングデータからわかっている。
近年、日本人においても男児の出生割合が低下しており、大気中の鉛濃度の減少が出生性比の変化と関連している可能性が考えられる。ただし、出生性比に関連する要因は鉛以外にも多くあるため、妊婦の鉛ばく露が出生性比にどの程度影響しているかはまだ十分にはわかっていない。また、海外の研究では鉛と出生性比の間には関連がないという報告や、男児が減少するという報告もあることから、鉛が出生性比に及ぼす影響についてはメカニズムの解析を含めて今後の研究課題と考えているという。
また、父親の鉛ばく露が出生性比に影響を及ぼすことも海外の研究として報告されている。今後、父親の血液中の鉛濃度が出生性比に及ぼす影響についても検証していく必要があると、研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース