RSL3による細胞毒性を増強させる化合物を探索
理化学研究所(理研)は2月9日、制御された細胞死「フェロトーシス」を増強する新しい化合物を発見したと発表した。この研究は、同研究所環境資源科学研究センターケミカルバイオロジー研究チームの吉岡広大特別研究員、室井誠専任研究員、長田裕之グループディレクターと理研-マックスプランク連携研究部門バイオプローブ応用研究ユニットの河村達郎研究員(研究当時)、渡邉信元ユニットリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、「ACS Chemical Biology」オンライン版に掲載されている。
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フェロトーシスは制御された細胞死の一種であり、がんをはじめとするさまざまな疾患と関連がある。特に、既存の抗がん剤に耐性を持つがんはフェロトーシスに対して感受性が高いことから、フェロトーシスの誘導が新たながん治療戦略として期待されている。
フェロトーシスを誘導するためには、細胞内でフェロトーシスを抑制しているタンパク質の機能を阻害する必要がある。それらのタンパク質のうち、主要な役割を担っているのがGPX4と呼ばれる酵素。GPX4に対する阻害剤の一つであるRSL3は、フェロトーシスを誘導する低分子化合物だ。しかし、RSL3は一部のがん細胞にはフェロトーシスを誘導する活性が弱いことが知られている。そこで、国際共同研究グループは、RSL3による細胞毒性を増強させる化合物の探索に着手した。
前立腺がん・肺がん細胞など、NPD4928/RSL3併用処理でフェロトーシス増強
研究グループはまず、理研NPDepo化合物ライブラリーを用いて、GPX4阻害剤RSL3による細胞毒性を特異的に増強する化合物のスクリーニングを実施。がん細胞を化合物単独で処理した時とRSL3と併用処理した時の毒性を比較し、併用時だけ細胞毒性が著しく増強される化合物に着目した。その結果、最も強力な化合物としてNPD4928を見出した。
次に、NPD4928がフェロトーシスを増強する仕組みを調べるため、NPD4928の標的タンパク質を解析。その結果、NPD4928はGPX4とともにフェロトーシスを抑えるタンパク質FSP1の活性を阻害することがわかった。サーマルシフトアッセイや化合物ビーズにより、NPD4928がFSP1に結合し、精製したFSP1の酵素活性を阻害することが示された。
また、前立腺がん細胞や肺がん細胞などさまざまながん細胞をNPD4928とRSL3で併用処理すると、フェロトーシスが増強されることが明らかになった。
GPX4阻害剤だけで効果限定の場合、FSP1阻害剤の併用療法が有用な可能性
フェロトーシス誘導は、新たな抗がん剤治療として有望な戦略だという。GPX4阻害剤だけでは効果が限られる場合、NPD4928のようなFSP1阻害剤が併用療法において有用となる可能性がある。
同研究で見出したNPD4928は、より薬らしい化合物を合成する基になるリード化合物として、またフェロトーシスの分子メカニズムを理解するツールとしての応用が期待できる、と研究グループは述べている。
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・理化学研究所(理研) プレスリリース