NK細胞がどのようにがん細胞を排除しているのか?顕微鏡レベルで観察
京都大学は2月7日、高感度発光イメージングと二光子顕微鏡とを駆使し、肺の血管内でのナチュラルキラー(NK)細胞とがん細胞の様子を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の松田道行教授、同研究員一瀬大志博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「eLife」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
がんで患者が亡くなる原因の9割は、原発巣ではなく転移したがんの影響だ。そして、がんの転移が最も多く起きる臓器は肺であるため、がんの肺転移を抑制することができれば、がん患者の予後改善が期待される。がん患者の血中には、極めて早期から多数のがん細胞が循環していることが近年明らかにされてきた。それにも関わらず転移巣がなかなか形成されないのは、肺においてNK細胞ががん細胞を効率よく殺傷しているからだ。しかし、NK細胞が肺でどのようにがん細胞を排除しているのか、顕微鏡レベルで観察した研究はなかった。
そこで今回、研究グループは、実際に肺でNK細胞ががんを殺傷している現場を観察することで、新たな転移を抑制する方法の手がかりを探索した。
NK細胞により、99%のがん細胞は排除
まず、麻酔をかけたマウスの肺を二光子顕微鏡で観察し、NK細胞とがん細胞を観察する系を確立。次に、NK細胞には活性化状態をモニターする蛍光バイオセンサーを、がん細胞には細胞死の刺激に反応する蛍光バイオセンサーを導入。肺の血管上で、NK細胞とがん細胞が遭遇した瞬間に何が起きるのかを観察した。
その結果、まず、がん細胞がNK細胞に接触する確率は約2時間に1回で、そのうち約70%の確率でNK細胞が活性化され、さらに、そのうち約70%の確率でがん細胞に傷害が起きるということがわかった。つまり、NK細胞によって、約5割の確率でがん細胞は細胞死する。これを繰り返すことで、99%のがん細胞を排除できるという。
生き延びた1%のがん細胞、24時間の間にNK細胞から逃れる手段を確立
しかし、生き延びた1%のがん細胞は、24時間の間にNK細胞ががん細胞を認識するための目印となる分子CD155/PVR/Necl-5を、血液凝固系を利用してその表面から脱ぎ去り、NK細胞から逃れることも同時に判明。この結果は、これまで不明だった「血液凝固阻害剤の腫瘍抑制効果」の原因も説明できるものだとしている。
転移後24時間以内に失われるNK細胞の監視機構を長続きさせる方法など検討へ
今回の研究により、なぜ、がん細胞がNK細胞から逃れて肺転移を行えるかに関する定量的な理解が進んだとしている。
研究グループは今後、転移後24時間以内に失われるNK細胞の監視機構を長続きさせる方法や、転移が確立した後にNK細胞のがん細胞認識機構を再起動させる方法について検討。がんの転移を防ぐ方法の開発へつなげていくとしている。
▼関連リンク
・京都大学 プレスリリース