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腸オルガノイド移植法をマウスで確立、ヒト潰瘍性大腸炎に応用可能性-東京医歯大ほか

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2022年02月04日 PM12:00

マウス腸炎モデルでのオルガノイド移植技術に科学的な解析を加えて公表

東京医科歯科大学は2月3日、さまざまな種類の腸オルガノイドのマウス大腸への移植方法を確立したと発表した。この研究は、同大統合研究機構再生医療研究センターの油井史郎准教授が、同高等研究院の渡辺守特別栄誉教授監修のもと、コペンハーゲン大学のKim Jensen教授と共同研究として行ったもの。研究成果は、「Nature Protocols」オンライン版に掲載されている。

腸オルガノイドとは、腸の内腔を覆う上皮の源となっている幹細胞を体外で増やし、形成される細胞集簇を指す。オルガノイドは多岐にわたる臨床展開を期待されているが、中でもオルガノイドを個体に移植することで臓器を再生させる再生医療への応用に、世界的な関心が高まっている。

研究グループは、世界で初めてマウス腸炎モデルでのオルガノイド移植に成功し、難治性潰瘍性大腸炎に対するオルガノイド移植の治療上の有益性を公表して以来、およそ10年間にわたりオルガノイドによる再生医療を主導する研究グループとして注目されてきた。マウス腸炎モデルでのオルガノイド移植技術は、このオルガノイド治療開発にかかる重要な基礎研究に必須の技術として世界的に大きな関心を集め、ケンブリッジ大学、、パドア大学など、世界各国の著名な研究機関および研究者との共同研究を通じて刷新され続けてきた。同手法を利用した研究開発の機運の世界的な高まりから、研究グループは今回、同移植手法の詳細に対し、科学的な解析を加えて公表した。

免疫不全マウス、野生型マウスでの移植成功率・移植面積などを公表

研究グループの開発したオルガノイド移植マウスモデルは、DSS腸炎という潰瘍性大腸炎モデルとして、すでに確立されたモデルを利用する非常に汎用性の高い方法。世界中でその有益性が認められ、多くの論文で同法を用いた実験成果が公表されてきた。

具体的には、腸炎による潰瘍を大腸に有するマウスに対して、体外で培養したオルガノイドをドナー細胞として経肛門的に投与すると、潰瘍部分にオルガノイドが生着し、個体内でオルガノイド由来の組織が再構築されるというもの。発表時には、レシピエントマウスとして獲得免疫機能が低下している特殊な免疫不全マウスを利用していたが、その後およそ10年にわたる研究の結果、正常な免疫能を有する野生型のマウスもレシピエントとして利用できることが明らかになった。また、この間、移植成功率や、移植によって再構成されるドナー由来上皮の面積(移植面積)の統計学的分布の解析を行うのに十分な症例数の移植成功例が得られた。

今回は、免疫不全マウス、野生型マウス双方での移植成功率・移植面積などの各種統計学的パラメーターを公表。具体的には、移植成功率は平均で35~55%程度、移植面積は8,000µm2~7,168,355µm2だったとしている。

培養時にWnt3a使用で移植面積の向上が期待できる

また、今までは生着したオルガノイドが個体内でどのように組織を再生していくのかに関する詳細が不明だったが、オルガノイドがまずは単層の平坦な細胞層として潰瘍部分を被覆するように生着し、その細胞群の中からおよそ1週間の過程で増殖能を有するLrig1陽性上皮幹細胞が出現し、間質に浸潤することで、個体内に腸特有の陥凹構造を再構築していく過程を明らかにすることに成功。ドナーとなるオルガノイドが組織に生着し、組織構造を再構成する様子を観察した世界で初めての成果となる。さらに、ドナー細胞の培養方法に関して、培養に使用する細胞外基質による相違がないこと、培養時にWnt3aを使用することで、移植面積の向上が期待できることなどの新規の知見も見出すことに成功した。

ヒト潰瘍性大腸炎において、広範な潰瘍でも十分にオルガノイドによる被覆・修復ができる可能性

ヒトと同様に、正常な免疫能を有する野生型マウスをレシピエントとした移植がマウスで可能であることを提示した今回の研究成果は、将来的にはオルガノイド移植を正常の免疫能を有するヒトに応用し得ることを担保する非常に重大なものであり、その実現可能性を強く支持する成果と言える。移植効率や移植面積の統計学的な解析結果は、今後のオルガノイド移植治療の実現に向けて、その実効性に関わる重要な基礎データを提示している。盲目的な細胞投与を行うマウスモデルにおける35~55%という移植効率は、ヒトへの応用では内視鏡による観察のもと直接病変部位にオルガノイドを散布することを考慮すると、実際の移植効率はより高いことが見込める根拠データとして重要だ。マウスで1,000,000µm2(=1mm2)を超える移植面積が多数の症例で再現性を持って達成された結果は、ヒト潰瘍性大腸炎において、広範な潰瘍でも十分にオルガノイドによる被覆・修復が可能であることを示唆する重要な成果だと言える。

「マウスモデルにおいて、移植したオルガノイドが1週間の期間で生着していく過程の同定は、ヒトにおけるオルガノイド医療においてクリティカルな観察期間の存在を示唆する成果だ。効率の良い移植に向けたオルガノイド培養条件に関する今回の基礎的検討は、今後の細胞調整法に多大なる示唆を与える成果だ」と、研究グループは述べている。

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