医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > ワクチン接種の心理的要因を3か国比較、共通点と相違点を明らかに-山口大ほか

ワクチン接種の心理的要因を3か国比較、共通点と相違点を明らかに-山口大ほか

読了時間:約 3分10秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年01月20日 AM11:30

2021年1~3月に日本・・ハンガリーでワクチン接種の意向を調査

山口大学は1月19日、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種意向に関して、イスラエルと日本、ハンガリーの3か国の比較調査を実施し、その心理学的要因を明らかにしたと発表した。この研究は、同大人文学部の高橋征仁教授、英国Warwick大学のRobin Goodwin教授、イスラエルAriel大学のMenachem Ben-Ezra教授らの研究グループによるもの。研究成果は「medRxiv」に公開された後、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

新型コロナウイルス感染症の流行を抑制する方法として、世界中でワクチン接種が提唱されている。しかし、どの国でもワクチン接種に対して一定の忌避傾向が存在している。研究では、ワクチン接種の先進国イスラエルと、ワクチン接種に出遅れていた日本・ハンガリーの3か国を対象に、ワクチン接種の意向を基礎付けている心理学的要因を探った。

イスラエル(2021年1月、1,011人)、日本(2021年2月、997人、(2021年4月、1,130人)の3か国でWeb調査を実施した。それぞれの調査実施時点での1回目のワクチン接種状況は、イスラエル22%、日本0%、28%だった。調査協力者におけるワクチン接種意向(接種者を除く)は、3か国間で違いが大きく、イスラエル74%、日本51%、31%だった。ワクチン接種の意向に関しては、それぞれの国の歴史的・文化的背景やローカル集団の影響、個々人の心理的特性などによる違いがアドホックに指摘されているのが現状だ。

「ワクチン接種しなかった場合の後悔」と「政府への信頼」が接種の意向の共通点

そこで研究グループは、U.ブロンフェンブレンナーの生態学的システムモデルを用いて、1:マイクロシステム=意思決定における個人の認知(感染や重症化の知覚、ワクチン接種の利益と弊害の知覚、ワクチン接種しなかった場合の後悔)、2:メゾシステム=ローカル集団の影響力と規範(家族や友人など重要な他者からの影響力)、3:マクロシステム=より広い社会からの影響力と規範(政府や保健当局への信頼、文化的迷信)の3層から、ワクチン接種の意向を体系的に説明することを試みた。

この生態学的モデルを検討するにあたり、研究では、層化多母集団のロジスティック回帰分析を行った。その結果、ワクチン接種の意向について3か国で共通する要因は、「ワクチン接種しなかった場合の後悔」と「政府への信頼」が挙げられることがわかった。逆に、感染や重症化への不安を示す「感染しやすさの知覚」や「重症化しやすさの知覚」、感染経験や既往症リスクは、どの国でもワクチン接種意向と有意な関連が見られなかった。このモデルによる分散の説明力は、イスラエル44.2%、日本47.9%、ハンガリー39.2%だった。

日本では「ワクチンを接種すると新型コロナに感染したことになる」が接種忌避と関連

日本に着目してみると、「学歴」や「主観的規範」が高いほどワクチン接種の意向が高く、反対に、「ワクチン接種の弊害」(副反応による活動への影響懸念、ワクチン接種のわずらわしさ)が高いほど、ワクチン接種の意向が低くなる傾向が見られた。また、「ワクチン接種の利益」や「COVID19の迷信」に関しては、全体として、明確な関連が見られなかった。

また、「COVID19の迷信」として取り上げた10項目については、新型コロナやワクチン接種について、それぞれの国ごとに異なった誤解が存在していることが明らかになった。イスラエルで特徴的だったのは、「ワクチンを接種するとDNAが変化してしまう」という迷信であり、ワクチン接種の意向とも大きく関連していた。対照的に、ハンガリーでは「ワクチン接種でアレルギー反応が起きる」とする意見が多く、ワクチン接種の忌避と関連していた。日本では、「ワクチンを接種すると新型コロナに感染したことになる」という誤解が比較的多く、ワクチン接種の忌避と関連していた。

接種キャンペーンのあり方を再検討する場合の考え方として6つの視点

今回の研究は、3か国の一時点でのデータであるため、今後、さまざまな国で同じ変数がそのまま同じ影響力を持ち続けるのかはわからない部分も少なくないとしている。また、研究グループは、各国でのワクチン接種キャンペーンのあり方を再検討するうえでの6つのポイントを以下のように示している。

1)病気の恐怖に焦点を合わせた接種キャンペーンは有効ではない。2)ワクチン接種の有効性や誤解の解消に焦点を合わせ、保健当局への信頼構築を強調したほうがよい。3)ワクチン接種を受けた者が身近な他者にワクチン接種を規範として推奨していくほうがよい。4)保健当局も医者も、リモートメディアによるキャンペーンだけでなく、職場や店に出向いたほうがよい。5)ワクチン接種への理解を妨げている誤解は、文化ごとに異なっている点に注意したほうがよい。6)同じ国内でも、宗教などの社会集団ごとに接種率に大きな違いがみられるため、コミュニティのリーダーがそれぞれの文化に馴染んだ対話などを介して、ワクチン接種をめぐる誤解を解いていく必要がある。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 白血病関連遺伝子ASXL1変異の血液による、動脈硬化誘導メカニズム解明-東大
  • 抗がん剤ドキソルビシン心毒性、ダントロレン予防投与で改善の可能性-山口大
  • 自律神経の仕組み解明、交感神経はサブタイプごとに臓器を個別に制御-理研ほか
  • 医学部教育、情報科学技術に関する13の学修目標を具体化-名大
  • 従来よりも増殖が良好なCAR-T細胞開発、治療効果増強に期待-名大ほか