指定難病CADASIL、抗血小板薬効果は乏しく、認知症の薬剤もない
国立循環器病研究センターは1月18日、ペプチドホルモン「アドレノメデュリン」について、遺伝性脳小血管病CADASIL患者対象の医師主導治験AMCAD試験において、1月13日に1例目への治験薬投与を開始したと発表した。この研究は、同大研究センター脳神経内科の猪原匡史部長、データサイエンス部の南学部長ら、宮崎大学フロンティア科学総合研究センターの北村和雄特別教授、三重大学の冨本秀和教授、新堂晃大准教授らの研究グループによるもの。
画像はリリースより
指定難病のCADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)は、脳梗塞や血管性認知症を呈する最も代表的な遺伝性脳小血管病。NOTCH3遺伝子変異により常染色体優性遺伝形式で発症し、大脳白質病変を特徴とする。近年、CADASILが多くの脳梗塞の原因となっていることが判明し、CADASIL患者は予想以上に多いと考えられる。典型的なCADASIL患者では、30歳以降に脳小血管病変・脳血流低下による大脳白質病変が出現し始め、その後、脳梗塞を繰り返し認知症や寝たきり状態を引き起こす。一般の脳梗塞の再発予防として用いられる抗血小板薬の効果は乏しく、認知症に対する薬剤もないため、いまだ治療法がない。
AM、大脳白質病変や認知機能を改善、血管性認知症モデル動物で
アドレノメデュリン(Adrenomedullin:AM)は、52個のアミノ酸からなるペプチドホルモン。AMは循環器系臓器で広く作られ、血管を拡張させたり、血管新生を促したりと多彩な作用が知られている。AMは、脳虚血に対する生体防御反応をつかさどると考えられている。
治療薬としてのAM投与の有効性は、各種の動物実験で示されてきた。脳神経内科の猪原匡史部長らは、CADASILの中核病変である大脳白質病変を再現する血管性認知症モデル動物において、AMが血管新生を誘導し、炎症を抑制して、大脳白質病変や認知機能を改善することを示した。さらに、細胞培養実験で、AMが低酸素下で抑制される乏突起膠細胞前駆細胞の分化を促進することを示し、大脳白質再生作用があることを明らかにした。以上からCADASILに対して、AMを投与する臨床試験が待ち望まれている。
目標症例数60、治験薬投与前と投与後の脳血流の変化量など評価
臨床応用に向け、AMの安全性が問題となる。しかし、AMはヒトの体内に存在する生理活性物質だという点が強みだと言えるという。また、すでに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や炎症性腸疾患、うっ血性心不全、急性心筋梗塞、陳旧性脳梗塞、急性期脳梗塞の患者でAMが投与された臨床研究の報告があり、いずれも大きな有害事象は生じていない。健常者を対象とした第1相試験も完了し、現在、潰瘍性大腸炎とクローン病を対象としたAMの治験が実施されている。
今回の治験は、CADASIL患者を対象としたAM投与の有効性および安全性の評価を目的とした医師主導治験(AMCAD治験)。1例目への治験薬の投与を1月13日に開始した。なお、同治験の治験計画書の作成にあたり、CADASILの患者会「CADASIL友の会」会員の支援があったとしている。
CADASILでの血管新生・抗炎症・大脳白質再生作用に期待
ラクナ梗塞や血管性認知症は、その大半が生活習慣病に起因する孤発性(非遺伝性)の病態だ。しかし、遺伝性の脳梗塞、血管性認知症に限定すれば、CADASILは最も主要な原因疾患の一つだと考えられている。AMは、CADASILにおいて、血管新生・抗炎症・大脳白質再生作用を期待できる治療薬だと期待されており、世界初となる本医師主導治験はその第一歩であると言える、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース