医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 新型コロナウイルスなどの病原性進化は「強毒化の傾向」-総研大ほか

新型コロナウイルスなどの病原性進化は「強毒化の傾向」-総研大ほか

読了時間:約 3分19秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年01月18日 PM12:15

ワクチンや抗ウイルス剤などをかいくぐる病原体の特徴は?

(総研大)は1月17日、A型インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどの病原体に焦点をあて、その感染力や病原性の進化を数理モデルで解析を行い、理論解析の結果、免疫やワクチンからの逃避を繰り返す病原体では、感染宿主をより激しく搾取し、疾病を重篤化させる方向への進化が起きやすいこと、つまり、より強毒化する一般的傾向があることが明らかになったと発表した。この研究は、総研大先導科学研究科の佐々木顕氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Ecology and Evolution」に掲載されている。


画像はリリースより

中世のヨーロッパの人口を半減させた黒死病や、第一次世界大戦末期から全世界を席巻したスペイン風邪の流行などの歴史を紐解くまでもなく、伝染病の流行は人類にとっての重大問題であり続けてきた。新型コロナウイルスに翻弄されている現在の状況を見れば、これはことさら強調する必要もないほど明らかだ。人類に大きな脅威をもたらし、喫緊の対策を迫られる災禍はさまざまあるが、こと伝染病への対策に対しては、災禍をもたらす側からの「反撃」があるというのが厄介な点だ。

伝染病を引き起こす病原体は、急速に巧妙に進化する能力に長けたウイルスや細菌や原生生物などの微小生物だ。そのため、病原体への対策が、それを凌駕する病原体の対抗進化を引き起こしたり、病原体をより強大な敵に育ててしまう危険性もある。実際に、病原性細菌に対する抗生物質投与が、耐性菌の進化につながり、それに対する複数抗生物質の同時投与という新たな切り札が多剤耐性菌の進化をもたらした。

インフルエンザA型ウイルス、新型コロナウイルスなどの病原性の特徴を数理モデルで解析

研究グループは、免疫機構をかいくぐり、最新の科学技術が生み出すワクチンや抗ウイルス剤などをかいくぐる病原体に着目。その感染力や宿主に対する病原性の進化の特徴を、数理モデルを用いて一般的に予測することを試みた。これまで、免疫やワクチンからの病原体の逃避と病原体の毒性とが同時に進化する場合に何が起こるかについては、理論的に全く解明されていない状態だった。

具体的には、宿主免疫系との相互作用のもとで抗原性と毒性という複数の病原体形質が、どのように同時進化するのかという問題に、量的形質の遺伝学と適応進化の動態とを統合する新理論体系(オリゴモルフィック・ダイナミクス)を開発して適用することで、その予測を可能にした。この理論の解析により、免疫やワクチンからの逃避を繰り返す病原体では、感染宿主をより激しく搾取し、重篤化させる方向への進化が起きやすいこと、つまり、より強毒化する一般的傾向があることが明らかになった。

生物が長い進化の末に獲得した、「獲得免疫システム」の根幹は免疫記憶にもとづく免疫応答にある。この獲得免疫のおかげで、通常の病原体による伝染病では、宿主は最初に感染した際には重い症状に苦しんだとしても、回復すれば同じ病気にはかからないですむ。ところが、インフルエンザA香港型(A/H3N2)やAソ連型(A/H1N1)ウイルスは、この獲得免疫系による防御に関係なく毎年流行を繰り返し、同じ人が何度もA香港型やAソ連型に感染してしまうといったことが起きる。これは、これらのウイルスに免疫が働かないわけではない。宿主は「全く同じ」A型インフルエンザ株には感染しないが、ウイルスの方が、自らの姿を変え、免疫系の警戒網(交差免疫)をかいくぐってしまうためだ。

そこで研究グループは、新型コロナウイルスのように流行の拡大と変異株交代が同時進行する病原体や、インフルエンザA型ウイルスのように、毎年のようにウイルス表面抗原タンパク質を変異させて宿主免疫系から逃げ続けるような病原体の、宿主に対する感染性の強さや病原性の強さはどういう方向に進化しやすいのかについて数理モデルで調べた。

宿主にとってより重篤な症状をもたらす方向へ、進化の行き先がシフトする傾向

その結果、このような病原体では、普通の病原体で進化する感染力や病原性のレベルを大きく超えて、宿主にとってより重篤な症状をもたらす方向へ、進化の行き先がシフトする一般的傾向があることがわかった。その理由として、宿主免疫系やワクチン投与から逃走し続ける状況では、宿主をうまく利用してトータルで多くの子孫を残すことよりも、宿主を早々に使い捨ててでも早く増えられるものが有利になるからであると考えられた。トータルの数では損をしても、逃走のスピードに優れる株は、結果として、免疫系の包囲網から早く抜け出すことができる。一方、ゆっくり数を稼ぐ株は、数を稼ぐ前に免疫系に飲み込まれてしまうと考えられる。

病原体の進化ダイナミクスへの介入が鍵となる可能性も

今回の研究成果により、「免疫やワクチンからの逃避を繰り返す病原体は、より強毒化もしやすい」という特徴が明らかにされた。また、病原体の免疫からの逃走や、強毒化のダイナミクスについての解明もかなり進んだと言える。研究グループは、免疫やワクチンによる病原体包囲網に対して、病原体の側が急速に巧妙に対抗進化してくるとしても、これらの理論的知見を生かして病原体の進化ダイナミクスに介入することにより、言い換えれば「追い込み方」を洗練させることで、病原体の対抗進化のスピード、さらには、その逃避の成功の可否をも変えることも将来的には可能になると考えている、としている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 頭蓋咽頭腫、治療法開発につながる腫瘍微小環境の分子機序を解明-千葉大ほか
  • 自閉スペクトラム症の「ぶつかりやすさ」に注意特性が関与-東京都立大ほか
  • 急性肝炎を引き起こすHEV、診断における抗体検査は有効とメタ解析で判明-広島大
  • 早期膵臓がん、尿中マイクロRNAによる非侵襲的検査を開発-慶大ほか
  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか