向精神薬使用と転倒・転落発生の関連について、明確な評価はされていなかった
東京医科大学は1月11日、同大病院の入院患者を対象とした症例対照研究を実施し、向精神薬使用と転倒・転落発生の関連を明らかにしたと発表した。この研究は、同大精神医学分野 井上猛主任教授、森下千尋助教を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されている。
画像はリリースより
入院患者の転倒・転落は、患者のactivities of daily living(ADL)低下につながる重大な事故だが、日本病院会の「2018年度QIプロジェクト結果報告」によれば、一般病床入院患者の転倒・転落発生率は0.27%であり、頻度の高いアクシデントだ。患者の転倒・転落のリスクを正確に評価し、リスクを増し得る薬剤の使用を慎重に行うことは重要だ。
向精神薬使用は、その作用機序から転倒・転落のリスクを増す可能性があると考えられ、複数の研究によって、向精神薬使用と転倒・転落発生との関連性の評価が行われてきた。しかし、先行研究の多くはレセプトデータベースを使用しており、転倒・転落というアウトカムの発現を正確に特定できない、向精神薬使用と転倒・転落発生の時間的間隔についての情報を得られないなどといった限界があり、これまでに一致した見解は得られていなかった。
診療記録から収集したデータを用いて入院患者対象の症例対照研究を実施
そこで研究グループは今回、診療記録から収集された信頼性の高いデータを用い、new user design(向精神薬の新規使用者のみを評価するデザイン)を使用し、入院患者を対象とした症例対照研究を実施。向精神薬(抗精神病薬・抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬)使用と転倒・転落発生との関連性を評価し、各クラスの向精神薬使用が転倒・転落の危険因子であるかについて検討した。
対象はprevalent user(向精神薬を第2病日までに使用した者)を除いた当院の入院患者とし、アウトカムは院内での転倒・転落とした。インシデントレポートに基づき、症例群として、2016年に転倒・転落した者254人を抽出した。年齢、性別、診療科で1:1マッチングを行い、対照群として同期間に入院した非転倒者254人を抽出した。
睡眠薬使用は、転倒・転落の発生と有意に関連
多変量ロジスティック回帰分析を実施し、年齢、性別、診療科、body mass index、入院時に記入された転倒転落アセスメントスコアシートの合計点、および他のクラスの向精神薬使用の調整を行い、4クラスの向精神薬(抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬)使用と転倒・転落発生との関連性を評価した。その結果、多変量ロジスティック回帰分析において、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬使用と転倒・転落発生との関連性は有意ではなかったが、睡眠薬使用と転倒・転落発生との関連性は有意だったという。
研究対象者数を増やし、個々の薬剤の使用と転倒・転落発生との関連性評価へ
今回の研究結果より、入院患者において、睡眠薬使用は転倒・転落の危険因子である可能性が示唆された。「今後は研究対象者数を増やし、個々の薬剤の使用と転倒・転落発生との関連性を評価し、いずれの薬剤使用が転倒・転落の危険因子であるかを検討していきたいと考える」と、研究グループは述べている。
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