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大量出血に対する人工赤血球を用いた救命蘇生、動物実験で有用性を確認-防衛医大ほか

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2022年01月12日 AM11:00

「産科危機的出血」に対し人工赤血球製剤を応用できるか

防衛医科大学校は1月11日、人工赤血球製剤の応用例として、分娩時の危機的な大量出血例を人工赤血球の投与でも救命できる可能性を動物実験により明らかにしたと発表した。この研究は、同大免疫微生物学講座の木下学教授、奈良県立医科大学化学教室の酒井宏水教授、埼玉医科大学総合医療センター産科麻酔科の照井克生教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Obstetrics & Gynecology」および「Scientific Reports」に掲載されている。

輸血治療は現行の医療に不可欠であり、国民の医療と健康福祉に多大の貢献をしている。しかし、離島・僻地における医療、夜間救急、緊急手術、大規模災害の発生時など、危機的出血にある傷病者に対し輸血が間に合わない(できない)ときがある。そのような状況の一助になりうる製剤として、長期間備蓄でき、血液型不一致や感染の心配をすることなく、いつでも必要時に投与できる、(ヘモグロビンベシクル、Hb-V)製剤の研究が進められている。

分娩に関連した命に関わるような大量出血は、妊婦のおよそ250~300人に1人の頻度で発生する。輸血を要するほどの大量出血は「産科危機的出血」と呼ばれ、現在でも妊婦の死亡原因の第1位である。産科危機的出血は、急速に全身状態が悪化することがあり、迅速かつ十分量の赤血球製剤などの輸血が必要となる。しかし、日本で分娩を取り扱う診療所等の一次施設(現在、日本の分娩数の半数以上の分娩が一次施設で行われている)の8割近くで輸血製剤の事前準備ができず、突発的に産科危機的出血が生じた場合の対処が遅れてしまい、大きな病院への搬送中に心停止となってしまう患者が依然として存在する。そのような患者を救うために、産科危機的出血が原因で出血性ショックになった場合の、血液製剤の投与を代替できる治療戦略が必要とされている。

防衛医科大学校病院産科婦人科では、従来から多量出血が予想される前置胎盤、癒着胎盤等のハイリスク妊婦を多く受け入れてきた。分娩時の大量出血では迅速な大量の輸血を必要とし、現場では献血量不足が大変憂慮されている。一方、室温で2年間有効な、保存性に優れた人工赤血球をこれまでに開発しており、これを用いて分娩時の大量出血症例を救命できないか研究してきた。

分娩時大量出血を想定した動物実験で、人工赤血球を投与したウサギ10羽中8羽が生存

研究グループは今回の一連の研究で、分娩時の子宮からの大量出血に対して、人工赤血球が出血性ショックの回避と、救命のため血液製剤の投与に代替しうる可能性があることを明らかにした。

最初の研究では、妊娠子宮の片側の子宮動静脈から出血が60分続き(その後結紮止血)、致死性の大量出血を来したウサギに、人工赤血球を出血直後から投与した。その結果、赤血球と血漿を輸血したウサギと同様に6時間後でも5羽中5羽の全羽が生存できた。

次に実際の分娩時の大量出血の状況を想定して、妊娠ウサギに帝王切開を行って分娩させた後に、前の研究と同じように大量の出血を来したとき、最初の30分間は代用血漿を投与し、続く30分間は代用血漿、人工赤血球もしくは赤血球と血漿を投与した。6時間後、代用血漿投与群は全羽死亡したが、赤血球と血漿を輸血した群は8羽全羽が生存し、人工赤血球を投与した群も10羽中8羽が生存していた。

血液製剤が手に入らない場合、人工赤血球の投与が有用な手段になる可能性

今後、臨床試験により安全性や有効性について詳細に時間をかけて検討する必要はあるが、人工赤血球は保存性に優れ血液型に関係なく投与できる特長があり、緊急性の高い分娩時の大量出血に対しても、設備の整った大きな病院に搬送するまでの間の有用な治療手段になる可能性がある。

「産科危機的出血では、できるだけ早期の血液製剤の輸血が必須であることは言うまでもないが、血液製剤が手に入らない場合は大きな病院までの妊婦の搬送中に、人工赤血球の投与が極めて有用な手段となることが期待される」と、研究グループは述べている。

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