HTLV-1感染症は、全世界で取り組むべき重要な感染症
東京医科歯科大学は1月5日、HTLV-1キャリアのバセドウ病では、若年、プロウイルスロード(感染細胞率)が低値であっても、重度の眼炎症(HTLV-1ぶどう膜炎)が起こることをつきとめ、バセドウ病の経過中に急な視力低下が起きた場合、HTLV-1感染の有無を確認する必要性を指摘したことを発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科眼科学分野の鴨居功樹講師と大野京子教授の研究グループが、東京大学医科学研究所の東條有伸教授(研究当時、現:東京大学名誉教授、東京医科歯科大学・副理事・副学長)、東京大学大学院新領域創成科学研究科の内丸薫教授、聖マリアンナ医科大学の渡邉俊樹特任教授/東京大学名誉教授との共同研究として行ったもの。研究成果は、「THE LANCET」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
HTLV-1は、全世界で取り組むべき重要な感染症と位置付けられ、2020年に世界保健機関(WHO)からTechnical Reportが発刊された。HTLV-1感染者は、世界で3000万人以上、日本に100万人前後存在すると推定されている。このウイルスはヒトに疾患を引き起こすため、先進国の中で最も感染者が多い日本は、このウイルスに対して率先して取り組む責務がある。
HTLV-1ぶどう膜炎の発症要因は不明、近年東京では若年・高齢発症も多い
HTLV-1が引き起こす病気としては、成人T細胞白血病、HTLV-1関連脊髄症、HTLV-1ぶどう膜炎が挙げられる。成人T細胞白血病・HTLV-1関連脊髄症は、感染から発症までの潜伏期間が長いため中年以降に発症し、また高いプロウイルスロード(感染細胞率)が発症に関与することが知られている。一方、HTLV-1ぶどう膜炎に関しては、どのような要因が発症に関与するか明らかではなかった。
近年の東京(東京医科歯科大学、東京大学医科学研究所)におけるHTLV-1ぶどう膜炎の発症年齢は、これまでに報告された中年をピークとする一峰性の分布とは異なり、若年と高年の発症も多くみられる。
HTLV-1キャリアのバセドウ病、若年・感染細胞率低値でも重度の眼炎症が起こる
研究グループは、HTLV-1ぶどう膜炎患者の診療において、眼科検査・全身検査・ウイルス学的検査・感染経路調査を行い、フォローアップする中で、HTLV-1キャリアのバセドウ病では、若年、プロウイルスロードが低値であっても、その経過中に、程度の強い硝子体混濁・網膜血管炎を伴うHTLV-1ぶどう膜炎が発症することを発見。これにより、バセドウ病の経過中に急な視力低下がみられた場合、HTLV-1感染の有無を確認する必要性が指摘された。
現在、日本に100万人、世界に3000万人ものHTLV-1感染者が存在するが、HTLV-1感染については診療時にあまり意識されていないと考えられる。研究グループは今回の報告を通じて、病状の背景にHTLV-1感染が関与している可能性を念頭に置いた診療が重要であることを提起した。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース