断熱性能の有無、エアコン/温水床暖房の使用の違いで比較
慶應義塾大学は12月15日、暖房の健康への影響を調査し、一定の断熱性能があり部屋が暖かいと健康に良い、また足元が暖かいと健康に良いことを示す調査結果を得たと発表した。この研究は、同大理工学部システムデザイン工学科の伊香賀俊治研究室、積水ハウス株式会社、一般社団法人日本ガス協会が共同で実施したものだ。
調査は、現行の省エネルギー基準(以下、現行省エネ基準)の「断熱性能を満たさない住宅」の居住者、現行省エネ基準の「断熱性能を満たす住宅」で主に「エアコン」を使う居住者と、主に「温水床暖房」を使う居住者を対象に行われた。測定調査およびアンケート調査の結果を、適切な統計分析手法を用いて分析した。
測定調査の項目は、温度および湿度(居間1mおよび床付近、寝室、脱衣所をはじめとした住宅各部)、血圧(朝2回、夜2回/日の測定)、身体活動量(装着型活動量計による測定)、測定期間中の被験者の行動(行動日誌による記録)。アンケート調査の内容は、健康に関わる症状、疾病の有無、冬季における暖房の使用状況、日常の生活行動、住宅の建築情報だった。
「居間の床付近が暖かい」居住者で、高血圧の確率が低い
血圧に関して、現行省エネ基準を満たしているかどうかを問わず、居間の床付近が暖かい方が、高血圧である確率が低い結果だった(21℃以上だと14℃未満より50%低い)。なお、推定血圧値を算出すると、現行省エネ基準の断熱性能に満たない住宅の場合より、満たす住宅で床暖房使用の場合の方が低いことがわかった(30歳男性で2.1mmHg、80歳男性で3.4mmHg低い)。
住宅内での活動量に関して、現行省エネ基準の断熱性能を満たす住宅において、部屋間の室温差(居間と脱衣所の温度差)が小さい方が、またエアコン使用の場合に比べて床暖房使用の場合の方が、座り続ける時間が短く活動量が多いことがわかった。具体的には、温度差が1℃小さいと1日あたり約27分、エアコン使用より床暖房使用の方が1日あたり約32分短い結果だった。
子のアトピー性皮膚炎、中耳炎の確率、「断熱性能を満たし床暖房使用」の場合に低く
さらに、子どもの健康に関して、アトピー性皮膚炎である確率は、現行省エネ基準の断熱性能を満たす住宅において、居間が暖かい方が、またエアコン使用の場合に比べて床暖房使用の場合の方が低いことがわかった。具体的には、居間が20℃以上だと20℃未満より70%、エアコン使用より床暖房使用の方が60%低かった。中耳炎である確率は、現行省エネ基準の断熱性能を満たす住宅において、エアコン使用の場合に比べて床暖房使用の場合の方が50%低かった。加えて、喘息である確率は、現行省エネ基準を満たしているかどうかを問わず、居間の床付近と脱衣所両方が寒い場合に比べて両方が暖かい場合の方が60%低いこともわかった。
活動量低下の改善、通院負担の回避等に貢献する可能性
調査結果の健康に対する価値として、次のことが考えられる。
血圧に関して、居間の床付近の暖かさにより血圧が抑制されると、厚生労働省「健康日本21(第二次)」で掲げられている40~80歳代の最高血圧を平均4mmHg低下させる目標達成に貢献する。
住宅内での活動量に関して、居間と脱衣所の温度差の小ささや居間の床付近の暖かさにより住宅内での活動量が増えると、高齢者の活動量減少による足腰の衰えから生じるさまざまな健康リスクや事故リスクの低減に寄与する。また、2020年のWHOガイドラインには、座っている時間を減らすことが全世代共通の推奨事項とされており、現在の新型コロナウイルス感染症流行下において懸念される人々の身体活動の減少、住宅内での座り過ぎの改善にも貢献する。
子どもの健康に関して、居間の暖かさや居間の床付近の暖かさ、脱衣所の暖かさにより子どもの疾病が抑制されると、継続的な通院による親子の身体的・精神的負担の回避に寄与する。
ただし、今回の調査等の結果は、統計学に基づく一定の手法でまとめた結果であり、実際には住宅の構造、居住者の既往症をはじめとする健康状態等により結果が異なることがあることに留意が必要だ。
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・慶應義塾大学 プレスリリース