医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 大腸がん関連線維芽細胞の起源細胞を同定-名大ほか

大腸がん関連線維芽細胞の起源細胞を同定-名大ほか

読了時間:約 3分31秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年12月09日 PM12:00

大腸がん周囲に存在し進展に関わる「」、起源細胞は?

名古屋大学は12月7日、大腸がんのがん細胞の周りに増生する正常細胞()が由来する起源細胞を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科分子病理学の榎本篤教授、高橋雅英名誉教授、小林大貴研究員(元:・アデレード大学国際連携総合医学専攻/ジョイントディグリープログラム大学院生、現:コロンビア大学博士研究員)らの研究グループと、アデレード大学のSusan Woods 博士、南オーストラリア健康医学研究所のDaniel Worthley博士、藤田医科大学の浅井直也教授らとの共同研究によるもの。研究成果は「Gastroenterology」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

がんは、がん細胞だけから成り立っているのではなく、その周囲にはがん細胞以外の多くの細胞(間質細胞)が存在している。大腸がんにおいては、これらの間質細胞のうち「線維芽細胞」と呼ばれる細長いかたちをした細胞が多数見られ、がんの進展に大きな影響を与えることが、今までの研究から示されている。がん組織中に存在する線維芽細胞は、がん関連線維芽細胞 (Cancer-associated fibroblasts、以下CAF)と呼ばれ、機能的にさまざまな種類のCAFが存在することが近年の研究から明らかになってきている。しかし、これらのCAFの起源細胞については諸説があり、詳細は明らかにはなっておらず、CAFの多様性に対する本質的な理解も不十分だった。

発がん過程で「増えるCAF」をマウスで確認、大腸上皮のレプチン受容体陽性の間質細胞に由来

研究グループは今回、正常の大腸組織中に存在するレプチン受容体と呼ばれる分子を発現する間質細胞が、大腸がんの発生過程で増殖することで、大部分のCAFへと進化することを明らかにした。また、これらのCAFはエムカム()と呼ばれる分子を発現して、大腸がんを促進することを見出した。

はじめに、ヒトやマウスの大腸がん検体を用いて、発がんの過程で線維芽細胞の数が増加していることを見出した。CAFのマーカーである平滑筋アクチンの発現を調べたところ、正常の大腸に比べ、大腸がんでは大幅に増加が見られることがわかった。次に、発がんの過程でこれらのCAFが形成される過程の検証を行った。マウスの大腸がんモデルを用いて、CAFが活発に増えている可能性を調べたところ、発がん過程で約75%のCAFが細胞増殖をしていることがわかった。

これらの「増えるCAF」の起源を探るため、遺伝子を改変したマウスを用いて、特定の細胞の運命を追跡する実験(細胞系譜解析)を行った。この実験により、「増えるCAF」の約4分の3は、正常大腸上皮の周りにみられるレプチン受容体陽性の間質細胞に由来していることが明らかになった。これらの細胞は、正常の大腸組織内ではほとんど増えることはないが、発がん過程で活性化して増殖し、CAFに変化することを見出した。

大腸がん間質にのみ発現する「MCAM」同定、高発現患者の予後悪化と関連

過去の研究では、がん細胞を含む上皮細胞がCAFに変化する、あるいは、骨髄由来の細胞ががん組織に呼び込まれてCAFに変化する可能性が提唱されていた。しかし、今回の研究において、少なくともマウスの大腸がんにおいては、がん細胞や骨髄由来のCAFは認められないことがわかった。これらの結果から、正常の大腸にもともと存在するレプチン受容体陽性の間質細胞からCAFが形成されることが示唆された。

そこで研究グループは、大腸がんのCAFの網羅的な遺伝子発現解析実施。大腸がんの間質にのみ発現が見られる因子として、MCAM(melanoma cell adhesion molecule、接着分子の1つ)を同定した。興味深いことに、MCAMを発現するCAFは、レプチン受容体を発現する細胞に由来した「増えるCAF」であることが、マウスを用いた実験から明らかになった。さらに、大腸がんの患者検体でMCAMの発現を調べたところ、大腸がん間質におけるMCAM高発現の患者で悪い予後と関連していることがわかった。

MCAM陽性CAF<マクロファージの動員<大腸がん促進

続いて、研究グループは、MCAM陽性のCAFが大腸がんの進行を促進するのではないかと仮設を立て、これを検証するために、MCAMの遺伝子を取り除いたマウスを作成し、大腸がんの進行に与える影響を調べた。その結果、MCAM遺伝子がないマウスでは、大腸がんの進行が抑えられて、マウスの生存が改善することがわかった。MCAMが大腸がんを促進する仕組みを調べたところ、MCAM遺伝子がないマウスでは、マクロファージと呼ばれる免疫細胞の数が少ないことが明らかになった。機能的な解析を行ったところ、MCAM陽性のCAFはマクロファージを大腸がん組織に動員することで、大腸がんを促進していることを発見した。

レプチン受容体陽性CAF、大腸がんの新たな治療標的候補に

がんの周りにいる正常細胞ががんの促進に重要であることはよく知られていたが、これらの細胞の起源については諸説があり、詳細は明らかではなかった。今回の研究で、大腸がんのCAFの大部分は、正常大腸に存在するレプチン受容体陽性の細胞が増えることで形成されることを明らかにした。また、これらのCAFはMCAMを発現して、大腸がんを進行させることがわかった。

「今回の研究は、大腸がんのCAFの成り立ちを包括的に調べた最初の論文であり、CAFの成因と多様性の理解に大きく貢献するものと推察される。研究で同定された新種のがん促進性の CAF やその起源細胞の働きを抑えることが、がん治療における今後の重要な治療標的となると考えられる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大