医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 非小細胞肺がんの新たな治療標的「CLIP1-LTK融合遺伝子」を発見-国がんほか

非小細胞肺がんの新たな治療標的「CLIP1-LTK融合遺伝子」を発見-国がんほか

読了時間:約 2分56秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年12月01日 AM11:45

LC-SCRUM-Asiaの遺伝子スクリーニングで発見

国立がん研究センターは11月25日、肺がんの遺伝子スクリーニングプロジェクトである「」(研究代表者:東病院 呼吸器内科長 後藤功一)において、非小細胞肺がんの新しいドライバー遺伝子となる「」を世界で初めて発見したと発表した。研究成果は、「Nature」電子版に掲載されている。


画像はリリースより

日本における死因の第1位はがんであり、このうち肺がんはがん死亡原因として最多。初期の肺がんと診断された場合は手術が可能だが、手術不能の進行肺がんと診断された場合は、薬物療法や放射線療法で治療を行うことになる。近年の遺伝子解析技術の進歩により、肺がん発症の原因となるさまざまな遺伝子変化()が相次いで発見され、これらのドライバー遺伝子を有する肺がんには、それを標的とした分子標的薬の有効性が高いことがわかってきた。

現在、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、NTRK、MET、RETなどのドライバー遺伝子を有する進行肺がんには、それぞれに対する分子標的薬を用いることが強く推奨されている。このように遺伝子変化を同定して、それに対応する有効性の高い薬剤を用いて治療を行うことを「」と呼ぶ。しかし、非小細胞肺がんの約50~60%には、これらのドライバー遺伝子が存在しないため、従来の抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療が行われる。

今後、個別化医療をさらに発展させるためには、既知のドライバー遺伝子を有していない非小細胞肺がんにおいて、治療標的となるような遺伝子変化を発見し、それに対する有効な治療を開発することが求められている。

肺腺がんの0.4%で発見、既知ドライバー遺伝子と相互排他的

LC-SCRUM-Asiaでは、 呼吸器内科の松本慎吾医長が中心となり、既知のドライバー遺伝子が陰性の非小細胞肺がんを対象にして、全RNAシーケンス解析を行い、新しいドライバー遺伝子を探索する研究を2020年10月より開始した。

その結果、肺がんの新しいドライバー遺伝子として「CLIP1-LTK融合遺伝子」を、世界で初めて発見した。さらに、過去にLC-SCRUM-Asiaに登録された542例の非小細胞肺がんの検体を用いてRT-PCR解析を行った結果、CLIP1-LTK融合遺伝子は2例(0.4%)で検出された。CLIP1-LTK融合遺伝子が同定された腫瘍は、いずれも肺腺がんであり、既知のドライバー遺伝子とは相互排他的だった。

CLIP1-LTK融合遺伝子陽性の肺腺がん患者にロルラチニブが著効

さらに、国立がん研究センター先端医療開発センター ゲノムトランスレーショナルリサーチ分野の小林進分野長らの研究グループが、細胞や実験動物を用いて基礎的な検討をした結果、CLIP1-LTK融合遺伝子は、LTKキナーゼの恒常的な活性化によって、細胞増殖や腫瘍形成など、がん化を引き起こすことが示された。LTK遺伝子は、ALK遺伝子と塩基配列や蛋白構造の相同性が高いことから、ALKキナーゼ阻害剤の多くはLTKキナーゼの阻害活性も有することが報告されている。このことから、7種のALK阻害剤の効果を細胞実験で検討した結果、特にロルラチニブがCLIP1-LTK融合蛋白のキナーゼ阻害作用、および細胞増殖抑制効果を示した。また、マウス異種移植モデルにおいても、ロルラチニブの抗腫瘍効果が確認された。

これらの基礎研究を基に、CLIP1-LTK融合遺伝子陽性の肺腺がんの患者に、(院内諸手続き後の適応外使用)による治療を行ったところ、著明な抗腫瘍効果を認めた。

治療薬、診断薬の確立へ

CLIP1-LTK融合遺伝子の頻度は非小細胞肺がんの1%未満であり、極めて希少な肺がんだが、国内だけでも年間約400人の患者がLTK融合遺伝子陽性肺がんで死亡していると推測される。よって、これらの患者へ有効な治療薬を届けるために、現在、研究グループは、LC-SCRUM-Asiaの遺伝子スクリーニングを活用して、CLIP1-LTK融合遺伝子を有する非小細胞肺がんを見つけ出し、LTK阻害薬の有効性を検討する臨床試験を行うことを計画している。また現在、LTK融合遺伝子を有する進行再発非小細胞肺がんに対して、ロルラチニブの安全性・有効性を検証する臨床第2相試験を計画中だという。

併せて、CLIP1-LTK融合遺伝子陽性肺がんを正確に診断するための診断薬開発も行っていく予定だとしている。こうした治療薬開発、診断薬開発に基づいて、CLIP1-LTK融合遺伝子に対する有効な治療法が確立することで、ドライバー遺伝子に基づく肺がんの個別化医療がさらに発展していくと、研究グループは考えている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大