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SLEの抑うつ症状に老化細胞が関与、フィセチン経口投与で症状改善の可能性-北大

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2021年12月01日 PM12:30

中枢神経ループスの30%ほどにみられる「うつ症状」の原因は未解明

北海道大学は11月26日、)モデルマウスの抑うつ症状に脳内に蓄積する老化細胞が影響していること、さらに老化細胞を取り除くことで抑うつ症状が改善されることを新たに見出したと発表した。この研究は、同大大学院保健科学研究院の千見寺貴子教授、札幌医科大学医学部解剖学第2講座の齋藤悠城講師、藤宮峯子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Immunology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

SLEは全身性に炎症性の病変を呈する自己免疫疾患。皮膚や腎臓などさまざまな臓器で炎症が起こり、臓器の機能が障害されるが、中枢神経も同様に障害されることがわかっている。これは中枢神経ループスと言われ、さまざまな神経症状を呈することが知られている。そのうち、うつ症状は中枢神経ループスの30%ほどにみられることが知られており、代表的な症状のひとつ。しかし、中枢神経ループスの病態メカニズムついては、脳内での過剰な免疫反応やサイトカインの増加があることなど少しずつ解明されているが、いまだに不明な点が多くある。さらに治療法が十分に確立されていないことから、SLEの中枢神経ループスの病態解明と治療法の開発は、喫緊の課題になっている。

近年、慢性炎症性疾患の原因に老化細胞の蓄積が関係していることが報告され、注目を集めている。老化細胞はサイトカインなどの炎症性物質を大量に分泌する細胞老化随伴分泌現象(SASP)によって慢性炎症を引き起こすと考えられ、老化細胞をターゲットとした老化細胞除去薬が開発されている。

抑うつ症状を呈したSLEモデルマウスの海馬領域に老化細胞が増加

研究グループは今回、中枢神経ループスで起こる過剰な炎症に老化細胞の蓄積が関わっているのではないかと考えた。具体的にはSLEモデルマウスを用い、抑うつ症状を呈したマウスの脳を組織学的に解析し、脳のどの領域でどの細胞が老化しているのかを検討。また、神経芽細胞を培養し、放射線照射をすることで人為的に細胞老化を誘導し、老化細胞がどのように脳で炎症を引き起こすかを検討した。さらに、老化細胞を除去する働きが示されているフィセチンの効果によって、老化細胞を選択的にアポトーシス(細胞死)できるかどうか、またSLEモデルマウスに経口投与したときに脳内の老化細胞を除去し、抑うつ症状を改善させることができるかについて検討した。

その結果、抑うつ症状を呈したSLEモデルマウスの海馬領域に老化細胞が増加することを組織学的解析によって明らかにした。さらに、老化した細胞の多くは神経細胞であることがわかった。

フィセチンを投与したマウス脳内の老化細胞が減少して炎症が減弱、抑うつ症状が改善

次に、老化細胞がどのようなサイトカインを分泌するのかを調べるため、神経芽細胞を培養し、放射線照射によって人為的に細胞老化を誘導してSASPに関連する遺伝子の発現を解析。その結果、老化細胞は中枢神経ループスで増加する複数のサイトカインの分泌能力を高めることが判明した。

さらに、老化細胞を選択的に細胞死させることのできる薬剤の効果を細胞培養実験で検証した。これまでいくつかの細胞老化除去薬が同定され、その有効性が特発性肺線維症や慢性腎臓病などで示されてきた。その中から、野菜やフルーツに含まれるポリフェノールの一種「」の効果を検証した。

研究グループはフィセチンを選んだ理由として、すでにサプリメントとして経口摂取されていること、フィセチンによる細胞老化除去治療の治療研究がヒトで実施中であること、フィセチンは他のポリフェノールよりも脳血液関門を通過しやすいことから脳内の老化細胞に作用しやすいことなどを挙げている。実際にフィセチンを老化した神経芽細胞と老化していない神経芽細胞に添加したところ、老化した神経芽細胞のみ数が減少することを確認した。

最後に、抑うつ症状を呈したSLEモデルマウスにフィセチンを経口投与し、その有効性を検証。フィセチンを投与したマウスは投与していないマウスと比較して、脳内の老化細胞が減少すると同時に炎症が減弱し、抑うつ症状が改善することがわかった。

今後、細胞老化除去薬が有害な老化細胞のみ選択的に排除できているのかなどの検証も必要

今回の研究成果により、SLEに伴う中枢神経ループスである抑うつ症状に老化細胞の蓄積が関与していることが明らかになった。さらに、フィセチンが、老化細胞を除去し、脳の炎症を抑制することでうつ症状を改善させることを明らかにされた。フィセチンは野菜やフルーツに含まれるポリフェノールの一種で、安全性が高いと予測されることから、SLEに伴う抑うつ症状の新しい治療法となることが期待される。

しかし、齋藤講師や千見寺教授らの過去の研究成果から、全ての老化細胞が体に有害なわけではなく、むしろ有益な働きをすることもわかっている。「今後は細胞老化除去薬が有害な老化細胞のみ選択的に排除できているのかなど、安全で有効な治療法の発展に向けてさらなる研究を続けている」と、研究グループは述べている。

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