COVID-19第1波の渦中で、子どもの社会情動的スキルへの影響は?
東京医科歯科大学は11月9日、保育園児の非認知スキル(社会情動的スキル)について調査し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大前と比べて、第1波中は低くなっていたが、園行事を中止しなかった保育所では、園児の社会情動的スキルがCOVID-19拡大前より伸びている傾向にあることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男教授と土井理美特別研究員の研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Psychiatry」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
日本におけるCOVID-19の第1波の状況下で、世界中の多くの保育所が閉園をしたり、発表会などの園行事を中止したりするなどの対応となった。これまでの研究から、保育所の閉園により、子どもや保護者のメンタルヘルスが悪化することが示されているが、園行事の中止が子どもに与える影響はわかっていない。また、これまで保育所の閉園による影響として、子どもの問題行動の増加や生活習慣の乱れなど、ネガティブな側面に焦点が当てられており、社会情動的スキルというポジティブな側面への影響は検討されていなかった。
研究グループは、COVID-19拡大前の2019年11月、2020年1月および第1波の渦中である2020年3月にかけて、保育園児の非認知スキル(社会情動的スキル)を縦断的に3園で調査しており、そのうちの1園では園行事を中止しなかったため、保育所での行事の効果を検証することができた。そこで、2020年におけるCOVID-19の第1波による自主的な保育園封鎖に伴う園行事の縮小が日本の未就学児の社会情動的スキルに与える影響を検討することを目的とした研究を行った。
行事を中止した保育所の園児の社会情動的スキル得点は低下
厳しい園封鎖は行われておらず、自主的な園封鎖が推奨されていた東京都内の3つの保育所に通園する4~5歳の32人の子どもを対象とした。子どもの社会情動的スキルは、Devereux Student Strengths Assessment mini(DESSA-mini)を用いて、2019年11月、2020年1月(COVID-19拡大前)、および2020年3月(COVID-19第1波中)の3回にわたり、担任保育士によって評価された。すべての保育所が2020年3月2日から自主的な園封鎖を実施し、2園が園行事の発表会を中止し、1園のみが3月4日に発表会を開催した。
その結果、発表会を中止した2つの保育所は、COVID-19拡大前の2019年11月から2020年1月では社会情動的スキル得点は低下していなかったが、2020年1月からCOVID-19第1波中の2020年3月では社会情動的スキル得点が低下していたことがわかった。一方、発表会をCOVID-19第1波中に実施した保育所は、COVID-19拡大前の2019年11月からCOVID-19第1波中の2020年3月まで、社会情動的スキル得点は上昇傾向だった。
COVID-19拡大による子どもの育ちへの長期的影響の検証を
今回の研究結果は、保育園での行事の効果を自然実験により検証できた貴重な結果といえる。保育所での発表会といった園行事は、コミュニケーションスキル、子ども自身の感情をコントロールするスキル、問題解決をするスキルなど、子どもの社会情動的スキルに関連するスキルを発達させる重要な機会であることがわかっている。COVID-19の感染から子どもたちを守ることも重要であるが、COVID-19拡大が長期化している現在では、COVID-19拡大による子どもの育ちへの長期的影響を検証していく必要がある。
「コロナ禍でも感染対策に十分注意しながら園行事を行うことが子どもの育ちに重要であることを示唆していると考えられる。今後、COVID-19拡大時において園行事を実施するか、中止するかの判断に、この結果が役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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