灌流欠損は重要所見である一方、なぜ形成されるかは不明
東北大学は10月28日、リンパ節の大きさが約10mmのリンパ節転移マウスモデルを用いて、腫大していない転移初期段階におけるリンパ節の灌流欠損の形成メカニズムを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医工学研究科腫瘍医工学分野の小玉哲也教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical & Experimental Metastasis」(電子版)に掲載されている。
画像はリリースより
リンパ節は、がんの転移の危険性が最も高い器官だ。リンパ節転移の有無は、がんの病期分類、治療計画、再発や死亡率のリスク増加に深く関わっている。これまでに小玉教授らの研究グループは、リンパ管からリンパ節に到達したがん細胞がリンパ節の被膜と実質リンパ組織との間の隙間(辺縁洞)に侵入し、リンパ節表面を走る静脈に浸潤することで、転移初期段階のリンパ節から血行性に遠隔転移することを発見している。したがって、リンパ節転移の早期診断と早期治療は、遠隔転移を予防する上でもきわめて重要だ。
造影CT、MRI、超音波画像など転移リンパ節の画像診断では、リンパ節のサイズ、丸い形態、灌流欠損などが重要な所見であり、中でも灌流欠損は、腫大していない転移初期段階のリンパ節において最も信頼性の高い所見である。これまで、なぜ灌流欠損が生じるのかは不明であり、新生血管の血行動態の異常、リンパ節内の腫瘍増大にともなう実質内血管の圧迫による血流減少などが仮説として考えられてきた。
リンパ節全体で直径50μm以下の血管数は減少し、直径50μm以上の血管数が増加傾向
今回、研究グループは、リンパ節サイズがヒトとほぼ同じ大きさ(約10mm)のマウスを用い、がん細胞をリンパ節に直接注入することで、リンパ管を介して離れたリンパ節に転移を誘導し、リンパ節転移の始まりの様子を造影高周波超音波画像(最大空間分解能:30µm)と造影マイクロCT画像(最大空間分解能:30µm)を用いて詳細に調べた。
サイズの増大を認めない転移初期段階のリンパ節では、腫瘍塊内には微小血管がほとんど存在せず、灌流欠損として映像化された。また、リンパ節全体としては、直径50μm以下の血管の数は減少し、直径50μm以上の血管の数は増加する傾向がみられた。さらに腫瘍の血管新生や酸素分圧(pO2)に変化はみられなかった。以上の結果から、灌流欠損は、血管が豊富な器官であるリンパ節に特異的な腫瘍形成形態であることがわかった。
リンパ節転移診断精度や治療成績の向上に期待
今回の知見により、「なぜ転移リンパ節に対して全身化学療法の治療効果が低いのか」に対する理由が示された。小玉教授らは、リンパ節に直接薬剤を投与するリンパ行性薬剤送達法の開発を進めており、灌流欠損をともなう転移初期段階のリンパ節の治療ならびに遠隔転移の制御を目指している。
「研究結果から、臨床画像検査において診断の難しい、サイズが大きくなる前の転移初期段階のリンパ節の診断指標として、灌流欠損が一層注視され、リンパ節転移診断精度や治療成績の向上が期待される」と、研究グループは述べている。
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