母親の職種と自然死産リスク、新生児・乳児死亡リスクとの関連を解析
大阪医科薬科大学は10月14日、死産リスクの高い職業が存在することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部社会・行動科学教室の鈴木有佳助教と本庄かおり教授、東北学院大学教養学部人間科学科の仙田幸子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「日本公衆衛生雑誌第68巻第10号」に掲載されている。
画像はリリースより
近年、第一子出産前後の就業継続率は5割を超え、出産を経ても就業を継続する女性の割合が上昇している。一方で、職業は、立ち仕事や、重量物の運搬、物質への曝露、疲労等が母体への負担となり、児の生存をはじめとした妊娠の結果に影響を与える可能性があることが報告されている。欧米では、母親の特定の職業が児の高い死亡リスクと相関することが明らかになりつつある。しかし、日本では、母親の職種と出産後1年時までの児の死亡の関連を検討した疫学研究はなかった。日本の死産率ならびに新生児・乳児死亡率は年々減少を続けており、国際的にも最低レベルだが、人口減少局面を迎えた日本で、児の命を守ることは人口学の面からも重要である。
母親の職種による児の死亡リスク要因が明らかになれば、妊婦に対する職場環境の改善や妊婦検診時のアドバイスによりリスクを回避できる可能性が考えられる。したがって、研究グループは、近年の日本社会において、母親の就業の有無に加えて、職業の種類(職種)と妊娠の結果の関連について検討することは重要であると考えた。
今回の研究では、5年度分の人口動態職業・産業調査(出生票、死産票)ならびに人口動態調査(死亡票)の調査票情報を用い、出産時の母親の職種による妊娠12週以降出生までの児の死亡(自然死産)リスク、出生から出生1年後までの児の死亡(新生児・乳児死亡)リスクについて解析した。
特に、サービス職は死産リスク「高」傾向
解析の結果、母親の職業の種類により死産リスクに差が認められた。出産時の母親の職種が管理・専門・技術と比較し、事務、販売、サービス、肉体労働では死産リスクが統計的に有意に高く、無職では有意に低いことがわかった。
死産リスクが最も高かったのは、サービス職。管理・専門・技術職の母親に比べて死産を経験した人の割合が1.76倍高いことが明らかになった。一方、新生児・乳児死亡リスクには有意な差が見られなかった。
有職者における死産の人口寄与危険割合(有職者における死産全体のうち、各職種に起因する死産の割合)を計算した結果、サービス職に起因する死産の割合は、すべての職業の中で最も高いことが判明。また、事務職の死産リスクは管理・専門・技術職の次に低いことが明らかになったが、事務職に従事する人の割合が多いため、人口寄与危険割合はサービス職に次いで高い値を示した。
妊娠経過が出産時の母親の職業を左右した可能性を否定できないことには留意が必要
今回の研究は、国の全数調査データ(約530万人)を用いて母親の職業の種類と出産時ならびに出生後の児の死亡との関連について明らかにした日本で初めての疫学研究だ。しかし、説明変数として用いた出産時の母親の職種は、妊娠中の職業とは一致しない可能性がある。妊娠の経過が出産時の母親の職業を左右した可能性を否定できないことには留意が必要だ。
同研究により、死産リスクの高い職業が存在することが明らかになった。同研究の知見を踏まえて、母親の職業と妊娠・出産や児の健康についての研究が今後進展することが期待される。また、職場における母性保護の促進に向けた努力の必要性、ならびに妊婦検診時の母親の職業を考慮したアドバイスの可能性が示唆される、と研究グループは述べている。
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