心不全に関わる無菌性炎症、CCL2を出して単球を呼んでいる細胞は?
国立循環器病研究センターは10月13日、マウスを用いて心不全の際に心臓の機能に障害を与える炎症細胞を血液から心臓に呼び寄せるのは心臓線維芽細胞であることを発見したと発表した。この研究は、同センターの大津理事長と英国のキングスカレッジロンドン、インペリアルカレッジ、米国のインジアナ大学との国際共同研究として行われたもの。研究成果は、「Science Signaling」に掲載されている。
心不全は、日本を含めた先進国で発症率が高い。また高齢者に多いためこれからの超高齢社会では増加することが予想されている。そのため病気の原因を明らかにして有効な治療法の開発が急務だ。
生活習慣病や動脈硬化、がん、神経変性疾患、自己免疫疾患など慢性病の発症や進展には細菌やウイルス感染は関与しない炎症(無菌性炎症)が重要な役割を果たしていることが知られている。心不全も例外ではなく無菌性炎症が病気の発症に関わっている。高血圧などの圧負荷が心臓に加わると血液中の白血球が心臓内に侵入して無菌性炎症が起こる。白血球、特に単球が心臓内で分化したマクロファージは心臓に障害を及ぼす。単球はCCL2と呼ばれる分子(ケモカイン)によって遊走する。心臓には心筋細胞、線維芽細胞、内皮細胞、平滑筋細胞など多種類の細胞が存在する。心臓の数多くの細胞の内、どの細胞がCCL2を産生して心臓内に単球を引き付けるか、これまでわかっていなかった。
線維芽細胞<NF-kB<CCL2<単球遊走<マクロファージに分化<炎症<心不全
線維芽細胞は、心臓内で心筋細胞と同程度の数が存在する主な構成細胞で、構造を保持する役目をしている。研究グループは、この線維芽細胞に着目し、圧負荷後にマウス心臓から単離した線維芽細胞を調べたところ、CCL2を発現していた。そこで一つ一つの線維芽細胞にどんなメッセンジャーRNAが発現しているかを調べたところ、その発現パターンから11種類に分類された。そのうち一つの細胞群は、CCL2などの炎症を起こす分子を高発現していたので「炎症性線維芽細胞」と名付けた。
炎症性線維芽細胞に高発現している分子は、NF-kBと呼ばれる転写因子で調整されている分子だった。さらに、線維芽細胞内のみでNF-kBが活性化しないマウスを作製して圧負荷をかけてみたところ、心臓に単球やマクロファージの蓄積がなくなるとともに心不全への進行が抑制された。つまり、線維芽細胞は、細胞間を接着し臓器の構造を保つ静的なものと思われていたが、炎症を起こす機能を持っていることが明らかになった。心臓に圧がかかると、心臓線維芽細胞でNF-kBが活性化して、CCL2が産生され、そしてCCL2が血中の単球を心臓に引き付け、心臓内でマクロファージに分化して、心筋細胞に障害を与え、心不全になることがわかった。
研究グループは今後、炎症性線維芽細胞の特徴をさらに検討してその活性を抑制する化合物を同定し、新規の心不全治療薬の開発につなげたいと考えているとしている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース