医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 「ダチョウ抗体担持マスク」で呼気からのSARS-CoV-2を目で確認に成功-京都府立大

「ダチョウ抗体担持マスク」で呼気からのSARS-CoV-2を目で確認に成功-京都府立大

読了時間:約 3分9秒
2021年10月06日 PM12:00

集団感染予防に未発症感染者の特定が重要

京都府立大学は10月1日、ダチョウ抗体を担持した口元フィルター入りの不織布マスク(ダチョウ抗体担持マスク)を用いることにより、呼気からのSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)の可視化が、蛍光抗体法で肉眼でも可能であることを見出したと発表した。この研究は、同大の塚本康浩学長らの研究グループが、(JST)の「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)トライアウトタイプ」の令和2年度追加募集における新規採択課題「ダチョウ抗体を用いたCOVID-19スーパースプレッダーの迅速検出法の開発」を進める中で、その基礎技術開発として成功したもの。


画像はリリースより

新型コロナウイルス感染症()では、1人が感染させる人数(実効再生産数;Rt)はそれほど多くない。しかし、ウイルスを大量放出するスーパースプレッダーが感染者の10人に1人程度存在し、たった1人で多くの人を感染させてしまうことがあり、無症状感染者などの呼気やクシャミ・咳飛沫や唾液・鼻水中のウイルス検出は、集団感染予防に有効な手段となる。

今回、研究グループは、世界に先駆けて開発した「ダチョウを用いた高感度な新型コロナウイルス抗体の低コスト量産化技術」と「繊維素材への抗体担持技術」を組み合わせ、簡単な光照射だけでウイルス検出技術を開発した。

大量精製したスパイクタンパク質をダチョウに免疫して抗体回収

具体的には、まず、新型コロナウイルスの変異株のスパイクタンパク質の遺伝子を大腸菌ベクターに組み込み大量精製し、これをヒトHEK細胞に遺伝子導入することで、リコンビナントタンパク質を精製。これをダチョウに免疫(注射)し、ダチョウの卵黄から高純度の抗体を回収。得られた抗体の反応性と特異性や性能は、ELISA法とウイルス感染実験により測定し、有用性を確認した。また蛍光標識する抗体には、コロナウイルス粒子全体に反応するダチョウ抗体を作製。これにより、フィルター上ではコロナウイルスのスパイクタンパク質にダチョウ抗体が特異的に結合し、結合したウイルス粒子全体に蛍光標識した抗体が結合する。そのため、特異性と反応性に優れている。

最小限のウイルス量を捉え目視できるようにフィルターと標識法を最適化

次に、不織布に抗体を物理的に担持する方法、ポリ乳酸を配合し抗体を共有結合させる方法などを用いて、大量作製したダチョウ抗体の活性を最大限に保持できるフィルターの開発を行った。ウイルスの可視化にはフィルターに液相が必要となるため、その素材での抗体保持性をELISA法により検証しながらフィルター上の抗体担持量とウイルス抗原量を変化させ、最小限のウイルス量でも捕捉できるフィルターへと最適化した。

さらに、ダチョウ抗体担持フィルターに捕捉されたウイルス粒子を可視化するために、複数の蛍光・発光色素や酵素を標識した二次抗体(コロナウイルスを認識するダチョウポリクローナル抗体)を作製し、目視で発色・蛍光が判定できる標識法と基質などの選定を行った。

感染者使用のマスクで可視化に成功、スマホLED光でも検出可能

最後に、実験室内でウイルス抗原を液化したダチョウ抗体担持フィルター、および新型コロナウイルス感染者が8時間使用したダチョウ抗体担持マスク(口元フィルター)に、二次抗体を反応させた上で、光源ボックスを用いて一定の波長の光を照射することで、新型コロナウイルスの可視化に成功した。また、光源の一つとしてスマートフォンのLED光を使用した場合も、ダチョウ抗体担持フィルター上のウイルスの可視化が可能なことを確認した。これにより家庭内でも簡単にマスク上のウイルスの可視化が可能となる。

この技術は、コロナウイルスのみならず、インフルエンザウイルスやマイコプラズマなどの抗体を同時に混同して繊維に結合させ、標識となる二次抗体の蛍光色素を病原体ごとに変えておけば、一度に多種類の病原体を色の違いで判別可能。全世界で毎日のように用いられる「使い捨てマスク」にダチョウ抗体を担持した口元フィルターを入れることでウイルス感染検出が可能となれば、無発症の感染者(スーパースプレッダーなど)を早期に自主的に隔離でき、結果として集団感染や家庭内感染も防げる。

特許出願済み、実用化に向けて進行中

研究グループは今後、呼気中ウイルスの簡易的迅速測定のためのマスク開発を行い、スマートフォンのLED光を用いた検査キットのウェアラブル化、さらにスマートフォンの顔認証時におけるコロナ感染による生体反応のデータベース化にも着手していくという。なお、この技術は特許出願済みで、実用化に関しては、米国スタンフォード大学医学部での臨床検体での検証を経て、京都府立大学発ベンチャー(オーストリッチファーマ株式会社、株式会社ジールバイオテック)と検査機器メーカーが製品化(検査キット化)し、国内外で販売する予定だとしている。

研究グループは、「この研究を通じて、新型コロナウイルス感染拡大の大きな要因となっている未発症感染者(スーパースプレッダーなど)の集団への侵入阻止というWithコロナ社会での集団防疫のための新たな技術の早期社会実装につなげる」と、述べている。

 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 過分化メラノーマモデルを樹立、免疫学的特徴を解明-埼玉医大
  • 心不全の治療薬開発につながる、障害ミトコンドリア分解機構解明-阪大ほか
  • 特発性上葉優位型肺線維症、臨床的特徴などのレビュー論文を発表-浜松医科大
  • 院外心停止、心静止患者は高度心肺蘇生・搬送も社会復帰率「低」-広島大ほか
  • 甲状腺機能亢進症に未知の分子が関与する可能性、新治療の開発に期待-京大
  • あなたは医療関係者ですか?

    いいえはい