肝臓の代謝能力で薬物動態が決定される18の薬を選び解析
千葉大学は9月24日、加齢による肝臓の能力の変化について、18薬剤の情報を独自の方法で統合して解析した結果、40歳から年に0.8%の割合で薬物処理能力が低下することを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院の樋坂章博教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Pharmacokinetics」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
薬が体内に入った後、代謝や排泄の役割を担うのは肝臓と腎臓である。高齢者では肝臓や腎臓の機能低下により、代謝や排泄が遅れて薬物の血中濃度が高くなり、思わぬ副作用を発現しやすくなる。そのため、高齢者では臓器の機能低下の度合いを把握して服用量を調節することが必要となる。腎臓については、臨床検査の結果からそのような機能を考慮した用量調節が行われている。しかし、薬の代謝で最も重要な働きをする肝臓での代謝は多様なことに加えて、薬物血中濃度の時間変化が薬物によって大きく異なることから、これまで加齢変化の程度について、複数の薬の情報に基づいた確かな解析は行われていなかった。
研究グループはまず、数多くある薬の中から、肝臓の薬物代謝酵素の活性を阻害したときに大きく薬物血中濃度が変化する薬を、「肝臓の代謝能力で薬物動態が決定される薬」として選定。次に、選んだ薬を対象に母集団薬物動態解析の結果を調べて、加齢による薬物血中濃度の変化が報告されているものに絞り込んだ。結果として選択された18の薬を独自の技術で統合解析し、加齢で肝臓の薬物代謝能力が相対的にどの程度変化するかを解析した。なお、肝臓の重量は成長とともに増加し、40歳以降になって一定の割合で減少するため、今回の解析では40歳を加齢変化の基準とした。
肝臓の薬物処理能力の変化、加齢による肝臓の重量や血流量の変化と対応
解析の結果、40歳を基準にした場合、年間0.8%の割合で、すなわち70歳で24%、80歳で32%、90歳で40%、それぞれ減少することを見出した。解析対象とした薬物はさまざまな種類の薬物代謝酵素によって代謝されるが、加齢による変化の程度はこれらの薬物酵素の種類によって大きく異なる様子はなかった。この変化はすでに知られている加齢による肝臓の重量変化、および肝臓の血流量変化の情報と非常によく一致することもわかった。また肝臓の重量や血流量は男性が女性に比べて大きい値であるが、加齢による相対変化には違いがないことがわかっている。
腎臓でも肝臓と同様の加齢変化
腎臓の薬物処理能力は、臨床検査として一般に行われるクレアチニン値から推定できることがわかっており、この値に基づく薬物の用量調節は静脈内投与の抗生物質などで広く行われている。そこで研究では、肝臓と比較するために腎臓から排泄されるイヌリンの処理能力の加齢変化についても解析した。その結果、40歳以降に年間0.97%減少しており、腎臓の血流量の加齢変化とよく一致することが確認できた。すなわち、肝臓も腎臓も、加齢による臓器の重量あるいは血流量の生理学的変化によって薬物の処理能力が変化していると統一的に理解できることが判明した。
高齢者への適切な用量調節が進むことに期待
今回の研究成果により、将来的には腎排泄型の薬物だけでなく、さまざまな肝代謝・排泄型の薬物についても、高齢者への適切な用量調節が進歩すると期待される。
樋坂章博教授は、今回の研究について「薬学研究者あるいは薬剤師の教科書には高齢者の肝臓の薬物処理能力の加齢変化について、これまで曖昧な記述しかなく困惑していた。この研究は、すでにたくさんの臨床研究で集められた情報を工夫して解析することにより、そのような長年の疑問に答えたもの。この情報が、薬物の適正使用に広範に利用できると期待している」と述べている。
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