医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 悪性中皮腫に対し新規アイソトープ治療を開発、動物実験で抗がん効果確認-量研ほか

悪性中皮腫に対し新規アイソトープ治療を開発、動物実験で抗がん効果確認-量研ほか

読了時間:約 3分13秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年09月28日 AM11:05

有効な治療法がない悪性中皮腫、2030年頃に国内発生ピークと予測

(量研)は9月23日、悪性中皮腫に対するα線放出核種を用いた治療薬候補の開発に成功し、動物実験によりその抗がん効果を明らかにしたと発表した。この研究は、量研量子生命・医学部門量子医科学研究所分子イメージング診断治療研究部の須藤仁美主任研究員、辻厚至グループリーダー、東達也部長と、東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授、金子美華准教授との共同研究によるもの。研究成果は、「Cells」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

中皮腫は、胸膜、腹膜などにある中皮から発生する悪性腫瘍で、80~85%が胸膜から発生する。中皮腫の原因のほとんどは、アスベストばく露だ。2005年のクボタショックを契機に、大きな社会問題となった。国内における悪性中皮腫による死亡者数は1995年の500人から、2000年710人、2005年911人、2015年1,504人、2017年1,555人と確実に増加の一途をたどり、世界全体では年間4万人が死亡している。

アスベストの輸入および使用量は1970〜1980年代がピークで、2004年に全アスベストに対して原則使用禁止となった。しかし、アスベストばく露から発症までの潜伏期間が25〜50年とされていることから、日本では悪性中皮腫の発生ピークは2030年頃、罹患者数は年間3,000人、アスベスト使用禁止が遅れている先進国の一部と開発途上国でも患者の増大が予測されている。

診断される患者の7割以上が進行がんであり、外科療法、内科療法、放射線療法を組み合わせた最新の治療が行われているが、有効な治療法がなく予後が悪いため、新たな治療法が望まれている。しかし、罹患率は日本国内で900人/年と患者が少ない、いわゆる希少がんであるため、民間企業による開発は活発ではなく、アカデミア主体での開発が必要な状況だ。

腫瘍に発現するポドプラニンを認識する抗体を用いて「225」を送達する仕組み

量研はこれまでに、放射線の飛ぶ距離が細胞数個分と短く、当たった細胞を殺傷する能力が高いα線を出す核種アクチニウム225(225Ac)を加速器で製造することに成功している。この225Acを中皮腫細胞に効率よく届けることができれば、飛距離の短いα線により、周囲の正常組織に障害を与えることなく中皮腫を治療することが可能ではないかと研究グループは考えた。

225Acを中皮腫細胞に届ける手法として、研究グループは中皮腫細胞の表面に高率に存在しているポドプラニンタンパク質に着目した。ポドプラニンは、がんの悪性度にも関係しており、治療抵抗性の中皮腫細胞の治療標的分子として有望だ。ポドプラニンを認識する抗体に225Acを結合すれば中皮腫細胞に届けられると考えられる。ところが、ポドプラニンはリンパ管内皮細胞にも存在しており、この細胞に225Acが届いてしまうと重篤な副作用が生じると懸念されていた。

そこで今回の研究では、東北大学が開発した正常組織のポドプラニンを認識せず、腫瘍に発現しているポドプラニンだけを認識する抗体NZ-16を用いて、その抗体に225Acを付加した「225Ac標識NZ-16」を開発し、中皮腫に対する抗腫瘍抑制効果をモデル動物において評価した。

開発した「225Ac標識NZ-16」をマウスに投与、がん縮小効果と生存期間延長を確認

研究グループは、α線標的アイソトープ治療薬候補として、225AcをNZ-16抗体に結合させた「225Ac標識NZ-16」を作製。α線とβ線の治療効果を比較するため、β線放出核種イットリウム90(90Y)をNZ-16抗体に結合させた「90Y標識NZ-16」も作製した。

中皮腫細胞を皮下に移植した中皮腫モデルマウスにNZ-16単体、90Y標識NZ-16および225Ac標識NZ-16をそれぞれ1回静脈投与して、腫瘍の大きさとモデルマウスの生存期間について56日間観察した。

その結果、225Ac標識NZ-16は18.5kBq(キロベクレル)の投与で、90Y標識NZ-16の3.7MBq(メガベクレル)の投与と比べて、有意ながん増殖抑制効果が確認された。この違いは、225Acから放出されるα線のエネルギーが大きいことに加え、細胞殺傷効果が高いことによるものだ。225Ac標識NZ-16の効果は観察期間中持続し、再増殖は観察されなかった。生存期間は、225Ac標識NZ-16の延長効果が高く、観察期間最終日で225Ac標識NZ-16は100%の処置マウスが生存した一方、90Y標識NZ-16は60%であった。また、副作用として懸念された体重減少や病理変化は観察されなかった。

3年後にFirst-in-human試験の実施を目指して準備中

研究成果により225Ac標識NZ-16抗体によるα線標的アイソトープ治療は、既存の治療が効かない中皮腫に対する副作用の少ない、効果的な治療法となることが期待される。現在、「AMED橋渡し研究プログラム」の支援を受けて、臨床試験に必要な非臨床試験計画の策定が進められている。「臨床応用に向けて関係機関と協力して準備を進めており、3年後にFirst-in-human試験の実施を目指している」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大