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大腸上皮細胞に発現する「E-NTPD8」が大腸炎の重症化を防ぐことを発見-阪大

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2021年09月27日 AM11:30

大腸における細胞外ATP分解を司る分子とその異常が免疫系に及ぼす影響は?

大阪大学は9月21日、E-NTPD8が腸内細菌から分泌されるATPによる大腸炎の重症化を防ぐために必須の分子であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大高等共創研究院の香山尚子准教授(免疫学フロンティア研究センター兼任)、同大大学院医学系研究科の竹田潔教授(免疫学フロンティア研究センター兼任)らの研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

大腸や小腸において、腸内細菌が生息する場(管腔)と免疫細胞が存在する場(粘膜固有層)は、上皮細胞が形成するバリアによって隔てられている。潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症や潰瘍が起こる難治性の疾患で、世界的に患者数が増加している。「上皮バリアの異常」や「腸内細菌に対する免疫系の異常な活性化」が潰瘍性大腸炎の病態に関係していると考えられているが、真の発症原因はわかっておらず、根本的な治療法は確立されていない。

腸内細菌や宿主細胞が分泌する細胞外ATPは、P2X/P2Y受容体を介して免疫細胞を活性化する。適切な免疫系の活性化は病原体の排除に役立つが、過剰な免疫応答は組織の破壊につながり、大腸炎の重症化の原因となる。そのため腸管組織で細胞外ATPの濃度が、厳密に制御される必要がある。E-NPPおよびE-NTPDファミリー分子は、細胞膜や細胞小器官の膜に発現し、ATPをADPやAMPに分解する酵素。小腸の上皮細胞に発現するE-NTPD7は、腸内細菌が分泌した細胞外ATPを分解し、Th17細胞の増加を防いでいる。また、小腸に存在する肥満細胞に発現するE-NPP3は食物アレルギーの予防に必須であることが報告されている。しかし、大腸における細胞外ATP分解を司る分子とその異常が免疫系に及ぼす影響は明らかになっていなかった。

Entpd8欠損マウスでは下痢と血便が悪化

研究グループは今回、マウスとヒトの正常な大腸の上皮細胞において膜型ATP分解酵素E-NTPD8が高発現すること、潰瘍性大腸炎患者の大腸上皮細胞ではE-NTPD8の発現が低くなっていることを見出した。

まず、通常のマウス(野生型マウス)とE-NTPD8を持たないマウス(Entpd8欠損マウス)の糞便に含まれるATPの濃度を測定(腸管内のATPの量を反映する)。その結果、野生型マウスと比較して、Entpd8欠損マウスの糞便に含まれる細胞外ATPの量が極めて多いことがわかった。また、抗生物質を飲ませて腸内細菌を死滅させたEntpd8欠損マウスと野生型マウスの糞便におけるATPの量に差はなかった。次に、マウスにデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を含む水を飲ませて潰瘍性大腸炎に似た腸炎を誘導すると、野生型マウスと比較してEntpd8欠損マウスでは、腸炎の症状である下痢と血便がひどくなることが示された。

E-NTPD8が腸内細菌から分泌されるATPを分解し、マウスの大腸炎の重症化を予防

DSSにより重篤な大腸炎を起こしたEntpd8欠損マウスでは、野生型マウスに比べて、大腸内の好中球(Ly6G陽性細胞)の数が顕著に増加していた。DSSを飲ませた野生型マウスの大腸内の好中球では、細胞死を誘導する因子の一つであるcleaved caspase3が検出されたが、Entpd8欠損マウスの大腸好中球では、cleaved caspase3は検出されなかった。さらに、anti-Gr1抗体を投与して腸内に好中球が存在しない状態にしたEntpd8欠損マウスでは、DSSによる大腸炎の重症化が起こらなかったという。

分解されないATP(ATPgS)にさらされた大腸好中球では、細胞死の一種であるアポトーシスの起こる割合が低下することが判明。また、細胞内の代謝経路の一つである解糖系を止める試薬2DGを加えるとATPgSによるアポトーシスの抑制は起こらなかった。野生型マウスの大腸内の好中球をATPgSにさらすと解糖系が活性化したことを示す細胞外酸性化速度の値が高くなったが、ATP受容体であるP2rx4(P2X4受容体)が欠損したマウスの大腸好中球では、ATPgSによる細胞外酸性化速度の上昇は起こらなかった。さらに、DSS投与後にEntpd8欠損マウスでみられる大腸内の好中球の増加と大腸炎の重症化は、P2rx4とEntpd8をともに欠損させた(Entpd8/P2rx4欠損)マウスでは起こらなかった。

これらの結果から、大腸上皮細胞に発現するE-NTPD8は、腸内細菌が分泌した細胞外ATPを分解することにより、好中球における解糖系の活性化とそれによる寿命延伸を抑制し、大腸炎の重症化を防ぐことが明らかとなった。

E-NTPD8や細胞外ATP-P2X4受容体シグナル経路が潰瘍性大腸炎の創薬標的となる可能性

潰瘍性大腸炎の患者数は世界的に増加の一途をたどっており、症状に合わせた多様な治療法の開発が望まれている。今回の研究成果により、潰瘍性大腸炎患者の大腸上皮細胞では、好中球による腸炎の重症化を防ぐために必須であるE-NTPD8の発現が低下していることが明らかにされた。

「潰瘍性大腸炎では、大腸における好中球の増加が病態に深く関与することが報告されており、E-NTPD8や細胞外ATP-P2X4受容体シグナル経路が潰瘍性大腸炎の創薬標的となることが期待される」と、研究グループは述べている。

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