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精神疾患当事者の良好な就労に、援助付き雇用プログラムの忠実な再現が重要-NCNP

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2021年09月07日 AM10:35

援助付き雇用プログラムの現実的な再現性と各成果指標との予測的関連は?

(NCNP)は9月6日、(効果的な個別就労支援)を忠実に再現することが精神障害当事者の良好な就労成果につながると予測できることを実証したと発表した。この研究は、NCNP精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部の山口創生室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Administration and Policy in Mental Health and Mental Health Services Research」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

精神疾患の有無にかかわらず、就労は人生における重要なイベントだ。ハローワークにおける精神疾患の当事者(以下、当事者)の2006年度の就職件数は7,000人だったが、2006年の障害者雇用促進法の改正にともない、2020年度には4万人を超えた。しかし、障害者雇用促進法は20時間以上働くことを前提としているため、特に重い精神症状を抱える当事者にとって、就労は高いハードルのままであることが珍しくない。援助付き雇用プログラムは、疾患の重症度や障害程度に関係なく、当事者の希望やニーズに基づいたサービスを提供することを支援哲学として、個々のペースに合わせた就職活動や定着支援、就職活動によって生じる新たな生活課題への支援などを提供する包括的なアウトリーチ型の個別就労支援だ。同プログラムは、特に重い精神疾患を持つ当事者への効果的な就労支援として発展してきたが、近年では脳卒中などさまざまな疾患・障害領域でその効果が確認されている。また、これまで、日本を含む多くの国で、同プログラムは高い就労率や長い就労期間をもたらすことが、標準型就労支援との無作為化比較試験により明らかになっている。

現在の国際的な関心は、「いかに現実世界で効果的な援助付き雇用プログラムを実装し、普及させるか」に移行している。特に近年では、フィデリティ尺度と呼ばれる支援構造のチェックリストを用いて同プログラムの再現性やサービスの質を評価する、実装・普及に関する研究が増加している。他方、これまでの研究は、援助付き雇用プログラムの再現性と就労率の比較だけに留まることが多く、現実世界における再現性とさまざまな成果指標との予測的関連については未解明のままとなっていた。そこで今回、研究グループは、この課題に取り組むことを目的に、国内16機関の新規サービス利用者を対象として、2年間の追跡調査を実施した。

国内の当事者対象、高再現群127名と低再現群75名で比較

研究の対象となったのは、援助付き雇用プログラムを実施する16事業所(就労移行支援事業所や精神科デイケアなど)において、2017年1月1日から6月30日までの間に新規にサービスを利用した精神疾患の当事者。最終的に分析対象となった202名の参加者について、2年間の追跡調査を実施した。また、個別型援助付き雇用フィデリティ尺度(JiSEF)を用いて、各機関の援助付き雇用プログラムの再現性を測定した。

その結果、10事業所(127名)が援助付き雇用プログラムをより忠実に再現しているグループ(高再現群、JiSEF≧91)となり、6事業所(75名)が再現性の低いグループ(低再現群、JiSEF≦90)となった。そこで、この2群間で参加者の就労の有無、就労期間、労働収入参加者の職業上の希望と実際に就いた仕事の一致度などを比較した。さらに、自記式アンケートに関する追加同意のあった参加者には、ウェルビーイングなどの尺度も記入を依頼した。

低再現群より高再現群で就労人数、就労期間、平均労働収入が良好

分析の結果、低再現群と比較し、高再現群では、より多くの参加者が就労し(38.7% vs 71.7%)、より長い期間働いていた(120.1日±196.3 vs 275.3日±260.6)。また、高再現群の参加者は、2年間の労働収入も多かった(約40万円±約72万 vs 約100万±約109万)。さらに、サービス利用開始時の職業上の希望と最初に就いた仕事内容との一致度は、高再現群においては、90%以上の参加者が障害の開示・非開示の希望に即した形で就労していた。他方、他の希望に関する一致度には両群で差がなかった。また、ウェルビーイングなどの自記式尺度の得点も両群に差が認められなかった。

なお、今回の研究知見の解釈上の留意点として、同研究は援助付き雇用プログラムを実施している、あるいは志向している事業所を対象にした調査であるため、その他の種別の就労支援を提供する事業所に、同研究の知見が当てはまるわけではないことが挙げられている。

国内の就労支援の発展に広く有用な知見

重い精神症状を抱える当事者にとって、就労は必ずしも簡単とはいえず、効果的な就労支援の実装や普及は大きな課題となっている。今回の研究は、当事者の障害程度に関係なく就労サービスを提供する事業所であっても、科学的に効果が実証された援助付き雇用プログラムを忠実に再現することで、多くの利用者が良好な就労成果指標を達成することを明らかにしたもの。一方、希望に基づく支援という文脈でいえば、援助付き雇用プログラムにも課題があることもわかった。これらの課題を明確にできたことは、援助付き雇用プログラムのさらなる発展につながる可能性がある。

今回の研究で得られた知見は、援助付き雇用プログラム以外の就労支援にも役立つ可能性がある。現在の精神疾患の当事者に対する就労支援に関する制度では、障害者総合支援法の就労移行支援事業所などで就労者数の実績を評価し、報酬単価に反映する仕組みがある。一方で、現行制度は障害程度に関係なく当事者を受け入れる事業所の体制や支援の質を評価する仕組みはない。また、当事者の就職先が、当事者自身が本当に希望したものであるかについても評価されない。研究グループは、「公的資金で運用される制度下のサービスにおいては、特に重い疾患・障害を抱える当事者にもサービス提供されているか、サービス内容は効果的なものであるか、どのような内容で就労できたかなどを評価することは重要な視点になると思われる。その点において、本研究の知見は、就労支援サービスの評価の在り方全般や効果的な実践の普及についての議論に貢献できるものと推測される」と、述べている。

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