多因子遺伝病と考えられる変形性関節症、世界的に患者数急増
理化学研究所(理研)は8月30日、17万人以上の「変形性関節症」患者のゲノムワイド関連解析(GWAS)のメタ解析を実施し、新しい56か所を含む計100か所の疾患感受性領域(遺伝子座)を同定したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダー、ゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダーらの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cell」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
変形性関節症は、骨・関節疾患の中で最も頻度が高く、世界で3億人以上、日本でも1000万人が罹患している。膝関節、股関節、脊椎をはじめ、全身のあらゆる関節を侵し、痛みなどのために患者の生活の質(QOL)、健康寿命、生命予後に大きな影響を与えている。要介護となる最大の原因でもあり、社会的・経済的負担は甚大だ。
また、変形性関節症は、患者数が世界で最も急速に増加している疾患の一つ。日本でも、厚生労働省「平成26年(2014年)患者調査(疾病分類編)」によると、整形外科疾患の中で平成の間に最も患者数が増加しており、1987年(昭和62年)からの27年間で約3倍になっている。関節軟骨の変性が病理学上の特徴だが、その原因は不明。遺伝要因と環境要因の総合的な作用により発症する多因子遺伝病であると考えられている。
17万人超の患者GWASメタ解析実施、56の新規遺伝子座を同定
池川志郎チームリーダーは、相関解析を中心とするゲノム解析による変形性関節症の病因・病態の解明に取り組んできており、世界で初めて膝の変形性関節症の大規模相関解析に成功するなど、これまで、数々の成果を上げてきた。今回は、変形性関節症のゲノム解析のための国際コンソーシアムであるGO(Genetics of Osteoarthritis)コンソーシアムにアジアから初めて参画し、研究を行った。
GOコンソーシアムでは、過去に独立に行われていた世界各国の変形性関節症におけるゲノムワイド相関解析(GWAS)のデータを収集した。82万6,690人(変形性関節症患者:17万7,517人、非患者:64万9,173人)の、9集団に由来する13の国際コホート研究におけるGWASデータを吟味、統合し、そのメタ解析を実施。その結果、100か所の独立した変形性関節症に相関する疾患感受性領域(遺伝子座)を同定した。そのうち、56か所はこれまで見つかっていなかった新しい遺伝子座だった。
親指、脊椎、性別、荷重/非荷重関節、痛みなどで遺伝子座に違い
また、さまざまな層別化解析を行い、親指、脊椎の変形性関節症に特異的な遺伝子座、性別によるリスクバリアントや、体重を支える関節(荷重関節)と体重を支えない関節(非荷重関節)の間での遺伝子座の違いを発見。このほか、変形性関節症の主な症状である痛みに関連する表現型との遺伝的相関の強力な証拠を見つけた。
膝関節、股関節、脊椎関節など11の部位別に相関SNPsを同定
さらに、股関節、膝関節、脊椎関節、指関節など、変形性関節症の全ての主要部位を含む11の表現型を定義し、表現型による層別化解析を実施。その結果、1万1,897個のゲノムワイドの相関を持つ一塩基多型(SNP)を新たに発見した。これらに、表現型内の条件付き分析を適用した結果、223個の独立した相関に分類できた。これらのうち84個は、これまで変形性関節症、およびその関連表現型との相関は見つかっていなかった。
このように大規模に、変形性関節症の部位別の相関が同定されたのは、今回が初めて。これらの結果から、変形性関節症の発生部位による遺伝的異質性が示唆された。つまり、変形性関節症には、個別化医療の必要性が高いと考えられる。「これらの成果は、今後の変形性関節症の原因、病態の解明、治療法の開発、予防医学研究の基盤になると期待できる。特に、患者にとって最大の問題である痛みに関連する相関の解明は、患者の満足度の高い治療に結びつくものと考えられる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・理化学研究所 研究成果