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PD-1による免疫抑制は、抗原親和性の低いT細胞選択的であることを発見-東大

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2021年08月30日 PM12:30

免疫チェックポイント阻害療法の改良に向けPD-1機能の全容解明が必要

東京大学は8月26日、抗原親和性の違いがPD-1による抑制効果に与える影響を詳細に調べた結果、抗原受容体と抗原の親和性が低い場合ほど、T細胞の活性化により誘導される遺伝子の発現がPD-1によって強く抑制されることを発見したと発表した。この研究は、同大定量生命科学研究所の清水謙次特任助教と岡崎拓教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

病原体やがん細胞からヒトの体を守る免疫システムにおいて司令塔と実行役の両方の役割を担うT細胞は、細胞表面上に発現する抗原受容体()を使って主要組織適合遺伝子複合体(MHC)上に提示される抗原を認識することにより活性化する。個々のT細胞は1種類のTCRだけを発現するが、T細胞ごとにTCRのアミノ酸配列が異なるため、抗原特異性が異なる。一方、同じTCRが複数の抗原を認識することや、異なるTCRが同じ抗原を認識することもある。このようにTCRと抗原の組み合わせはさまざまだが、組み合わせごとにその結合親和性が異なる。

抗原受容体に加えてT細胞には免疫補助受容体と呼ばれる分子が複数発現しており、それらがT細胞の活性化を厳密に制御している。免疫補助受容体にはT細胞の活性化を増強する興奮性免疫補助受容体と減弱させる抑制性免疫補助受容体がある。がん細胞に対する免疫応答が、抑制性免疫補助受容体であるPD-1およびCTLA-4によって強く抑制されることから、抑制性免疫補助受容体の機能を阻害することによりがんを治療する免疫チェックポイント阻害療法が開発された。PD-1を標的とした免疫チェックポイント阻害療法はさまざまながんに対して劇的な治療効果を示すが、治療効果を示す割合は限られており、自己免疫疾患様の副作用の発症が高頻度に認められることから、大幅な改良が望まれている。一方、PD-1の機能については多くの謎が残されており、免疫チェックポイント阻害療法の改良に向けて、それらの謎の解明が必要とされている。

PD-1は抑制するT細胞をどのように選んでいるのか?

PD-1は自己組織やがん細胞に対するT細胞の応答は強く抑制するが、病原微生物に対するT細胞の応答を無力化することはない。PD-1が抑制するT細胞をどのように選んでいるのかは、これまで大きな謎だった。病原微生物の抗原を認識するTCRと比べて、自己組織やがん細胞の抗原を認識するTCRは、抗原を認識する親和性が一般的に弱いと考えられている。そこで研究グループは今回、TCRの抗原親和性がPD-1による抑制効果に与える影響に着目して解析を行った。

抗原への親和性が低いT細胞ほどPD-1により強く抑制

研究グループはまず、同一の抗原を異なる親和性で認識するTCRを発現するT細胞を6種類準備し、それらを抗原で刺激して活性化させた。活性化により発現が誘導される遺伝子の量を比較したところ、抗原への親和性が低い場合ほど、PD-1によって強く抑制されることを発見した。

次に、特定のTCRを発現するT細胞を、そのTCRによって異なる親和性で認識される6種類の抗原で刺激した場合にも同様の傾向が認められることを確認した。T細胞はMHCクラスIによって提示される抗原を認識して標的細胞を傷害するキラーT細胞とMHCクラスIIによって提示される抗原を認識して他の免疫細胞の活性化を補助するヘルパーT細胞に大別されるが、キラーT細胞とヘルパーT細胞の両者で同様の傾向が認められることが確認された。

TCRからのシグナル伝達効率の違いがPD-1による抑制の受けやすさを決定

一方、抗原のMHCに対する親和性が異なる場合や抗原提示細胞上のMHCの発現量が異なる場合には、T細胞の活性化に必要な抗原量は大きく変化したが、PD-1による抑制の効果は影響を受けなかった。これらの結果から、TCRからシグナルが伝達される効率の違いがPD-1による抑制の受けやすさを決定していることが明らかになった。

がん抗原への親和性が低いT細胞がPD-1によってより強く抑制

最後に、がん細胞に対するT細胞の親和性がPD-1によって変化するかを検討。マウスにがん細胞を移植した後、所属リンパ節からT細胞を単離してがん抗原に対する応答性を比較したところ、PD-1欠損マウスではがん抗原に対する親和性が低いT細胞の割合が相対的に増えていた。これにより、野生型マウスでは、がん抗原に対する親和性が低いT細胞がPD-1によってより強く抑制されていることがわかった。

研究グループは先行研究において、発現誘導に強い抗原刺激を必要とする遺伝子ほどPD-1によって強く抑制されることを発見している。先行研究では遺伝子による違いに着目したが、本研究では細胞による違いに着目し、細胞によって遺伝子の発現誘導効率が変化するためにPD-1による抑制効果が変化することを発見した。以上の結果から、PD-1は全てのT細胞を同等に抑制するのではなく、抗原への親和性が低いT細胞を選択的に抑制することが明らかになった。これにより、T細胞応答の特異性が向上し、自己組織への望まないT細胞応答が回避されていると考えられた。

PD1によるT細胞抑制メカニズム解明、がん免疫療法の改良などに期待

PD-1阻害抗体による治療効果および自己免疫様の副作用は、がんの種類や個人によって大きく異なる。がん細胞や自己組織に特異的なT細胞がPD-1を阻害することによって活性化すると考えられているが、実際に活性化されるT細胞の特徴の詳細はわかっていない。「PD-1がどのような特徴を持ったT細胞を、どの程度、どのように抑制しているのかを理解することにより、PD-1阻害抗体によるがん免疫療法の改良や新しい免疫制御療法の開発に役立つと期待される」と、研究グループは述べている。

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