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睡眠薬ラメルテオン、メラトニン受容体シグナル伝達複合体の立体構造を解明-東大ほか

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2021年08月17日 AM11:10

メラトニン受容体作動薬、臨床に用いられているが詳細な作用機序は未解明

東京大学は8月6日、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析法でメラトニン受容体MT1とGiタンパク質三量体で構成されるシグナル伝達複合体の立体構造を解明し、さらに機能解析やバイオインフォマティクス解析を行って受容体の活性化メカニズムやGiタンパク質三量体と選択的に結合する機構を明らかにしたと発表した。この研究は、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の岡本紘幸大学院生(博士課程)、西澤知宏准教授(研究当時、現 横浜市立大学教授)、濡木理教授、東北大学の井上飛鳥准教授、関西医科大学の寿野良二講師、清水(小林)拓也教授、京都大学の野村紀通准教授、岩田想教授、ほか国内外の複数の研究室との共同研究として行われたもの。研究成果は、「Nature Structural and Molecular Biology」に掲載されている。


画像はリリースより

メラトニンは夜間に分泌され、睡眠の誘導や概日リズムの制御に関与するホルモン。分泌されたメラトニンは、膜受容体タンパク質であるGPCRの一種のメラトニン受容体に結合し、メラトニン受容体がGiタンパク質三量体を介して細胞内に抑制性シグナルを伝達することで、最終的に睡眠の誘導などの生理作用をもたらす。これらの生理作用の重要性から、メラトニンおよびメラトニン受容体は、睡眠障害などの治療標的として注目を集めており、多くの作動薬が開発され、臨床に用いられているが、これらの薬剤がどのようにしてメラトニン受容体に作用してシグナルを伝えるのかに関してはあまりわかっていなかった。

近年、X線結晶構造解析によって、睡眠障害の治療薬が結合した状態でメラトニン受容体の立体構造が報告され、薬剤の認識機構などが解明された。しかし一連の構造解析では、受容体の安定化のためにさまざまな変異が導入された、生理活性を示さないような変異体が用いられていた。そのため、受容体を活性化状態にする作動薬が結合しているにも関わらず不活性化型の構造を示しており、生理的な状況を反映していない状態だった。以上から、メラトニン受容体がリガンドによって活性化するメカニズムは不明なままであり、治療薬の開発に求められる詳細な作動メカニズムは解明されていない状況にあった。

受容体の活性化に重要なアミノ酸残基を新しく特定

今回、研究グループは、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析法を用いて、リガンド()が結合し活性化したメラトニン受容体MT1およびGiタンパク質三量体で構成されるシグナル伝達複合体の立体構造を解明した。これにより、メラトニン受容体が活性化するメカニズムを明らかにした。さらに、東北大学の井上准教授が開発したGiタンパク質三量体の活性化検出法を用いたメラトニン受容体の変異体解析により、先行研究では明らかとなっていなかった受容体の活性化に重要なアミノ酸残基を新しく特定することに成功した。

Gタンパク質の種類により受容体複合体の構造に違いがあることを発見

GPCRによって活性化されるGタンパク質にはいくつかの種類があり、MT1はGiと呼ばれるGタンパク質を選択的に活性化することが知られている。GPCRは一般的に活性化に際して6番目の膜貫通ヘリックス(TM6)が構造変化することが知られているが、MT1受容体では他のGiシグナル伝達受容体に比べてTM6が大きく跳ね上がるように動くことを発見。これまでの研究から、Giシグナル伝達受容体ではGsシグナル伝達受容体に比べてTM6の構造変化が小さく、この違いが共役するGタンパク質の選択性を決めていると考えられてきた。一方、今回明らかにしたMT1受容体では、Gsシグナル伝達受容体と同程度の大きさでTM6の構造変化が見られた。したがって、このTM6の動き自体はGタンパク質シグナルの選択性とは直接的には関係がなく、TM6の構造変化の程度はむしろTM6の疎水性アミノ酸の分布に大きく依存することが示唆された。

一方で、GPCRの構造を網羅的に比較したところ、Giシグナル伝達受容体では、細胞内側の空間がGsシグナル伝達受容体に比べて狭いという特徴がわかった。さらにGsシグナル伝達受容体に比べて、Giシグナル伝達受容体では細胞内ループなどを介した相互作用が弱く、GiのC末端のみで相互作用していることが明らかになった。イタリアScuola Normale Superiore di PisaのRaimondi准教授による構造情報を用いたバイオインフォマティクス解析の結果から、Gsシグナル伝達受容体間ではGタンパク質と受容体の相互作用が保存されている一方で、Giシグナル伝達受容体ではばらつきが大きく、受容体ごとにやや柔軟な相互作用を形成していることが明らかになった。以上からGi共役とGs共役の選択性はTM6の構造変化の程度の違いだけで決まるというこれまでの考えに対し、受容体の細胞内側の空間的な特徴や、細胞内ループを介したGタンパク質との相互作用など、より多くの要素が複合的に選択性に寄与することが明らかになった。

不眠症や、時差ボケなどの治療薬開発の加速に期待

「今回の研究における活性化型のメラトニン受容体の立体構造と、先行研究のX線結晶構造解析による不活性型の立体構造とを組み合わせることで、計算機シミュレーションによるメラトニン受容体の薬剤探索が加速し、不眠症や、時差ボケなど概日リズムの乱れによる体調不良に対する治療薬の開発へとつながることが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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