医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 乳幼児の難治てんかん、早期外科手術での発作コントロールが発達改善の可能性-NCNP

乳幼児の難治てんかん、早期外科手術での発作コントロールが発達改善の可能性-NCNP

読了時間:約 3分2秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年08月17日 AM10:55

乳幼児期の手術、その後の発作や発達にどのような影響?

)は8月13日、3歳未満で外科治療を受けたてんかん患者のてんかん発作と発達の転帰を解析し、外科治療による発作のコントロールが患児の良好な発達に寄与することを明らかにしたと発表した。この研究は、NCNP病院脳神経外科の岩崎真樹部長、NCNPてんかんセンターの中川栄二センター長、トランスレーショナル・メディカルセンター情報管理・解析部生物統計解析室の立森久照室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neurosurgery, Pediatrics」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

薬物治療の効果が乏しいてんかん(薬剤抵抗性てんかん)に対しては、外科治療が行われる。脳の発達過程にある小児では、繰り返すてんかん発作や脳波の異常そのものが正常な発達を妨げることがあるため、手術が可能な薬剤抵抗性てんかんにはなるべく早い外科治療が薦められている。小児では、てんかん発作をコントロールするとともに、発達への悪影響を減らすことが、てんかん治療の大事な目標となる。

一部の原因、特に片側巨脳症に代表されるような大脳の大きな皮質形成異常は、生後間もない時期に薬剤抵抗性てんかんを生じることがある。そのような患者には1歳を待たずに外科治療が実施されることがあるが、大人に比べると乳幼児の開頭手術は合併症のリスクが高いと考えられている。乳幼児のてんかん外科は大脳半球離断術のような大掛かりな手術が多く、手術後に水頭症をきたし、それに対する追加治療が必要になる患者が20%程度いると報告されている。

これまで、てんかん外科手術後の患児の発達を大規模に調べた報告はほとんどない。乳幼児期に手術を行うことが、その後の発作や発達にどのような影響を与えるのか、合併症が発達に悪影響を与えるのかを明らかにした研究はこれまで行われてこなかった。

2006~2019年に外科治療を受けた3歳未満の患者75人対象

NCNPてんかんセンターでは、以前から難治てんかんの乳幼児に対して可及的早期の外科治療を実施してきた。今回の研究では、NCNPにおける乳幼児てんかん外科の治療経験をまとめ、合併症や発作転帰が患児の発達に与える影響を探った。

2006~2019年までの期間にNCNPてんかんセンターでてんかんの外科治療を受けた3歳未満の患者75人を対象に、手術後のてんかん発作の有無、手術に伴う合併症、発達指数などの診療情報を抽出して調査。因果ダイアグラムに基づいて、手術前の発達指数、手術後の発作消失、手術の種類、てんかんの原因、水頭症の合併の5つの因子を選び、それらが手術1年目の発達指数に与える影響を重回帰分析で検討した。

手術後の発達に与える影響は少なく、手術を行うメリットの方が大きい

その結果、生後3~4か月で手術を受けた患者が最も多く、平均年齢は12か月、大脳半球離断術を受けた患者は27人。手術から1年経った時点で、62人(82.7%)の患者のてんかん発作が消失していた。手術後に一度もてんかん発作を起こさなかった患者の割合は、1年目で79%、2年目で70%、5年目で58%だった。

手術時、患者は平均で2.2種類の抗てんかん薬を服用していたが、手術後1年目では1.9種類、平均5年の時点では1.3種類に減っていた。約3割の患者は、発作が完全に消失したために、薬物治療を中止していたという。

手術に伴う死亡例はなかったが、一時的な合併症は19人の患者に見られた。水頭症は13人(17.3%)に生じ、シャント手術などの追加治療が行われていた。

重回帰分析の結果、手術1年目の発達指数に影響するのは、手術前の発達指数とてんかん発作の消失であり、合併症(水頭症)の影響は小さいことがわかったとしている。

以上の結果から、乳幼児期早期の手術はとても効果が高く、薬物治療も減らせることが判明。また、手術による発作の消失は発達に良い影響を与えると考えられた。17%の患者で水頭症を合併するリスクがあるものの、手術後の発達に与える影響は少なく、手術を行うメリットの方が大きいと思われる。

今後の検証が待たれるとともに手術技術の工夫も望まれる

子どもの手術はリスクを伴い、どの程度の年齢であれば十分に安全に手術が行えるのか、答えはわかっていない。今回の研究結果より、経験を有する脳神経外科医と小児神経科医のチームであれば、生後3~4か月でのてんかん手術は比較的安全に行え、発作のコントロールと発達に有効であることがわかった。

今後は、技術の普及を図りながら、他の施設でも同様の結果が得られるのか報告を待つ必要があるという。また、手術は早ければ早いほど良いのかという点もわかっていないとし、リスクを減らすためにあえて手術を遅らせた方がよい可能性もあり、検証が待たれるとしている。乳幼児手術において、合併症を減らすような手術技術の工夫も望まれる、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大