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LDLコレステロール高値が認知症のリスクを上昇させる可能性-筑波大ほか

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2021年07月28日 PM12:00

約180万人を最大23年間追跡した英国の医療ビッグデータを解析

筑波大学は7月27日、約180万人を最大23年間追跡した英国の医療ビッグデータを解析した結果、LDLコレステロール高値が認知症のリスクを上昇させる可能性が示されたと発表した。この研究は、同大医学医療系(ヘルスサービスリサーチ分野)の岩上将夫助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Lancet Healthy Longevity誌」に掲載されている。

認知症は世界の疾病負担の上位に位置する重要な疾患。特に高齢化が進む日本や英国などの先進国では、認知症が社会・医療に与える負担はますます増加している。しかし、認知症の治療法の開発は難航しており、また新規治療薬が登場したとしても、高額な医療費が社会問題となり得る。

一方、認知症の予防に関する研究は徐々に蓄積されている。世界主要医学誌「ランセット」の認知症委員会は現在、予防可能な12の認知症リスク因子(低教育、高血圧、難聴、喫煙、肥満、うつ、運動不足、糖尿病、社会的接触の少なさ、飲酒、脳外傷、大気汚染)を認めており、これらの因子に介入することで、認知症の40%程度を予防できると推定している。この予防できる割合をさらに上げていくために、新たな認知症リスク因子の同定が期待され、世界中でさまざまな研究が行われている。

これまで血中脂質、特に、LDLコレステロールが認知症のリスクと関連する可能性が基礎研究で示唆されていたが、ヒトの集団において十分には証明されていなかった。その理由の一つとして、過去の研究の多くは小規模で、なおかつ高齢者を短期間しか観察できていなかったため、LDLコレステロールと認知症との関連を検出できなかった可能性がある。

LDLコレステロール値が約39mg/dL増加するごとに認知症の発生率比が1.05倍に

研究グループは今回、英国の医療ビッグデータの一つであるプライマリーケアデータベース「Clinical Practice Research Datalink」(CPRD)を利用した。英国では古くからプライマリーケア制度(かかりつけ医制度)が確立され、住民は近所にあるプライマリーケア診療所に登録する。そのため、同じ診療所が長期にわたって同じ患者の一般診療や専門医紹介を担当し、情報を一元的に管理するシステムが整っている。CPRDデータベースは、英国の約7%の診療所の電子カルテから日常診療情報を収集し、匿名化した上で研究に利用できるようにしたもの。

研究では、CPRDの中で、1992〜2009年に血中の総コレステロール値を測定された40歳以上の一般住民186万人を同定し、同時に測定されたHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)や中性脂肪の値も用いて、推定LDLコレステロール値を計算した。初回測定後から2015年1月までの間(最大23年間)に、かかりつけ医または専門医により診断された認知症(脳血管性認知症、アルツハイマー病、それ以外の認知症)を、研究上のアウトカムとした。

多変量ポアソン回帰分析という統計学的手法を用いて、コレステロール値と認知症診断との関連を解析。コレステロール値と認知症との関連性は、コレステロールを測定した年齢と追跡期間の長さによって変化することが過去の研究から示唆されていたため、初回測定時の年齢(40~64歳、65歳以上)と初回測定時からの期間(10年未満、10年以上)により層別化を行った。解析では、既知の認知症リスク因子である喫煙歴、飲酒歴、肥満度、糖尿病や高血圧などの併存疾患等を統計学的に調整した。

解析の結果、LDLコレステロール値が約1mmol/L(日本の単位では約39mg/dL)増加するごとに、認知症の発生率比が1.05(95%信頼区間1.03-1.06)倍となり、弱いリスク上昇を認めた。しかし、初回測定時の年齢が若く、追跡期間が長いほど、その関連の程度は強まる傾向が認められた。測定年齢が40~64歳で10年以上追跡できたサブグループの中では、認知症の発生率比はLDLコレステロール値が約1mmol/L(約39mg/dL)増加するごとに1.17倍となった。LDLコレステロール値によって集団を5群に分けた場合、一番低い群(<100mg/dL)に比べ、一番高い群(≥190mg/dL)の認知症の発生率比は1.59倍だった。認知症のタイプ(脳血管性認知症、アルツハイマー病、それ以外の認知症)ごとに検討した場合、アルツハイマー病と比較的強い関連が見られたとしている。

40~64歳時のLDLコレステロール高値が10年以上後の認知症リスクを増加させる可能性

なお、中性脂肪やHDLコレステロール値は認知症とほぼ関連がなく、総コレステロール値と認知症の関連は、LDLコレステロール値と認知症の関連と同様のパターンが認められたが、その程度は弱いものだった。過去の研究では総コレステロールと認知症の弱い関連が示唆されていたが、ここではLDLコレステロールが主な役割を果たしていたことが推察された。

以上の結果より、LDLコレステロールは認知症のリスク因子であり、特に比較的若い時期(40~64歳)のLDLコレステロール高値が、長期間(10年以上)経ってから認知症リスクを増加させる可能性が示唆された。同研究は、LDLコレステロール高値の人が認知症のリスクが高いことを示した観察研究であり、LDLコレステロールを下げる介入が認知症のリスクを下げることを示せたわけではない。しかし、LDLコレステロールを下げる方法(食事療法や運動療法、スタチンなどの薬物療法)は、主に心筋梗塞の予防手段として確立されており、研究グループはLDLコレステロールを予防可能な認知症リスク因子のリストに加えるべきと結論付けた。

今後は日本の医療ビッグデータで認知症リスク因子の探索などを行う予定

研究グループは、ランセット誌の認知症委員会の予防可能なリスク因子のリストにLDLコレステロールを加えるよう働きかけていくとともに、医療ビッグデータを用いて新しい認知症リスク因子の同定を今後も行うことを計画していくとしている。また、今回の研究では1990年頃から構築され信頼性も高い英国の医療ビッグデータを利用したが、今後は日本の医療ビッグデータも用いて、認知症リスク因子の探索や認知症の医療・社会的負担の推定を行っていく予定だという。

最近、認知症の新規治療薬が米国で承認されたが、同時に予防の発展も重要だ。「一般的に予防の方が医療経済の観点からは効率的だ。高齢化社会に向かう日本では、予防にもっと目が向けられるべきだと考えられる」と、研究グループは述べている。

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