小児睡眠呼吸障害における交感神経系の変調と下顎骨成長との関与を詳しく解析
東京医科歯科大学は7月26日、小児期の間欠的低酸素曝露による下顎成長障害がβ2受容体遮断薬により改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科咬合機能矯正学分野の小野卓史教授、細道純講師およびHong Haixin大学院生(2021年4月より、深圳大学附属総合病院に所属)らの研究グループと、東京医科大学医学部法医学講座の吉田謙一兼任教授、前田秀将准教授のグループとの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Physiology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
閉塞性睡眠時無呼吸症(以下、OSA)は、寝ている間に空気の通り道である上気道が閉塞し、いびきとともに何回も呼吸が止まることを繰り返す疾患。小児においては、成長遅延、中枢発達障害、さらに糖尿病や高血圧症などの生活習慣病を誘発することから、小児医療における大きな問題となっている。小児OSA患者は、全身の成長遅延とともに、下顎骨の低成長(小下顎症)や歯列の狭窄を呈することから、小児OSAと顎骨の成長障害の両者を結ぶメカニズムの存在が予測されているが、小児OSAにおける骨成長障害の発症・進展の詳細なメカニズムについては、いまだ不明な点が多く残されている。
小児OSAにおいて睡眠中に反復される呼吸の停止と再開は、夜間の間欠的低酸素血症を生み出し、睡眠の分断化や質の低下のみならず、酸化ストレスや交感神経系の興奮を介して、さまざまな生活習慣病の病態を生み出す。また、間欠的低酸素への曝露は、成長に関わるホルモンの分泌減少を招き、成長低下をもたらす可能性が考えられる。
ラットへのβ2受容体遮断薬投与でレプチンの分泌が増加、下顎成長障害から回復
研究グループは今回、小児OSAの呼吸病態を再現した間欠的低酸素曝露の成長期ラットに対して、骨組織に多く存在する交感神経β2受容体に対する選択的遮断薬の投与実験を行い、小児睡眠呼吸障害における交感神経系の変調と下顎骨成長との関与を詳しく解析した。
研究ではまず、小児OSAの疾患モデル動物として、小児OSAの呼吸病態を再現した成長期ラットの間欠的低酸素曝露モデル(IHモデル)を作製し、疾患モデル動物(IH群)において、血中レプチン濃度の上昇、セロトニンおよび成長ホルモンの血中濃度の低下とともに、下顎骨の低成長が生じることを明らかにした。
そこで、間欠的低酸素曝露による交感神経β2受容体の活性化が全身病態の発症・進展の鍵となることに着目。骨組織に多く存在する交感神経β2受容体を標的とする選択的遮断薬(β2A)であるブトキサミンの投与実験を行ったところ、ブトキサミンを投与した疾患モデル動物(IH+β2A群)において、レプチンの血中濃度の改善とともに、下顎骨の成長が改善されることが明らかになった。
さらに研究グループは、下顎骨の成長の中心を担う下顎頭を対象に、組織生化学的解析を行った。その結果、成長期の間欠的低酸素曝露は、下顎頭における軟骨層の減少、破骨細胞分化誘導因子RANKLの発現低下、軟骨下骨の骨密度の増大(骨硬化)を誘発するものの、ブトキサミン投与により、これらの病態が改善されることが判明した。
小児OSAにおける顎の形や大きさの不調和に対する治療法開発の糸口となる可能性
全世界で、5人に1人の子ども(5~19歳)が肥満や過体重であり、小児肥満が増加している日本においても、気道側壁や舌への脂肪沈着による上部気道の狭小化と、モンゴロイドのもつ短頭型、つまり「奥行きが浅い」顎顔面骨格という形態学的に不利な特徴の重畳により、睡眠中のいびきや無呼吸に苦しむ子どもの増加が予測される。また、機能的に未熟である幼児期においては、睡眠中の呼吸障害が、調和のとれた全身成長を妨げるとともに、さまざまな臓器に影響を与え、生涯にわたり重篤な後遺症をもたらすリスクをもたらす可能性がある。
「本研究で得られた成果は、小児OSAにおける顎骨の成長阻害の新たな診断・予防の分子標的の可能性を示すともに、交感神経系の亢進を呈する小児OSA患者における顎の形や大きさの不調和に対する治療法開発の糸口となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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