交通安全運動実施月とそれ以外の期間の交通死亡数を比較
筑波大学は7月2日、「全国交通安全運動」を実施した月とそれ以外の時期における全国の1日当たりの交通死亡数の比較、およびその経年変化を分析した結果を発表した。この研究は、同大医学医療系の市川政雄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology & Community Health」に掲載されている。
画像はリリースより
交通事故の予防を目指して、交通安全に関する広報や取り締まりの短期的なキャンペーンが、世界各国で長年行われている。しかし、多くのキャンペーンは反復性がなく、死亡事故自体が比較的まれであることなどから、実際にこのようなキャンペーンの実施期間中にどのくらい交通死亡数が減少するのかについて、適切な研究デザインや分析手法、十分なサンプルサイズがあるデータを用いて行われた研究はそれほどない。
実施月の全国1日当たりの交通死亡数は、それ以外の期間と比べ-2.5%
研究グループは今回、警察庁や交通事故総合分析センターの公開資料から得た1949年1月~2019年12月までの全国の月間交通死亡数のデータと、春の全国交通安全運動が行われた月(年により4月、5月、6月と異なる)のデータを用いて、運動が実施された月とそれ以外の時期との1日当たりの交通死亡数の違いを、時系列回帰分析という手法で分析した。また、その効果について、経年的な変化を明らかにするために、全データを4期間(1949~1964年、1965~1989年、1990~2004年、2005~2019年)に分けて同様の分析を行った。
その結果、運動が実施された月は、それ以外の時期に比べて、全国の1日当たりの交通死亡数が、-2.5%(95%信頼区間:-4.1, -0.9)変化していることがわかった。また、4期間の交通死亡数の変化は、1949~1964年は-4.5%、1965~1989年は-2.6%、1990~2004年は-0.1%、2005~2019年は-3.5%であった。このことから、日本の交通インフラや交通安全対策が未発達であった1949年から1964年には、それ以降の期間と比べて、運動の効果が大きかった可能性が示唆された。
広報や取り締まり以外の交通安全対策にも注力が必要
全国交通安全運動は、実施期間中の交通死亡数の減少に有効ではあるものの、その効果は限定的であることが示された。すなわち、国連が掲げるような世界の交通死傷数の大幅な減少(2021~2030年の間に半減)や、日本の第11次交通基本計画の目標(2020年に2,839人であった死者数を2025年までに2,000人以下)を達成するためには、広報や取り締まり以外の交通安全対策にも注力する必要があることを示しており、日本のみならず他国の交通政策にも参考になると考えられる。
「本研究は、交通安全運動を実施した月における交通死亡数の変化のみに着目しており、長年行われてきた全国交通安全運動そのものが交通安全思想の普及に果たしてきた役割や、運動の費用対効果までは考慮されていない。今後、これらについても、明らかにしていく予定だ」と、研究グループは述べている。
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