7月は例年より搬送者数減、気象の影響かコロナの影響か?
名古屋工業大学は6月30日、東京都、大阪府、愛知県、宮城県を対象に、気象データと計算シミュレーション技術を融合することにより1日当たりの熱中症搬送者数を予測して実測値と比較、2020年における熱中症搬送者数の影響について考察し、その結果を発表した。この研究は、同大大学大学院工学研究科電気・機械工学専攻の平田晃正教授、東北大学サイバーサイエンスセンター、東京電機大学の共同研究グループによるものだ。
画像はリリースより
昨今のコロナ禍による影響で熱中症搬送者数は変化したのかに注目が集まっている。2013~2020年の夏(6~9月)の東京都、大阪府、愛知県、宮城県の熱中症搬送者数を見てみると、2020年の搬送者数は、7月は例年に比べ減少しているが、8月は多くなっている。ただし、熱中症の患者および搬送者数は、気象の影響が深く関係するため、7月の搬送者数の減少がコロナ禍の影響なのか、年ごとの気象の違いなのかは不明瞭だった。
気象の影響を取り除き、人口動態を考慮した熱中症搬送者数を予測
共同研究グループは、気象データと計算シミュレーション技術との融合により熱中症搬送者数を予測する手法を開発してきた。この手法は、気象条件からスーパーコンピュータにより深部体温変化・発汗量を推定、人口およびその年齢分布等を考慮して熱中症搬送者数を予測する技術だ。この手法を用いることにより、気象の影響を取り除いた比較が可能となる。
今回の研究では、東北大学サイバーサイエンスセンターのスーパーコンピュータ「AOBA」を用いて夏季期間の深部体温変化・発汗量を推定、各都府県における人口およびその年齢分布を考慮して熱中症搬送者数を予測した。1日当たりの平均気温を用いた場合でも同等の予測精度が得られることも確認。愛知県の予測誤差差異は-0.9人/日だった。
屋外の実搬送者数と予測値から、ステイホームに伴う暑熱順化の遅れなどを示唆
屋内/屋外からの搬送者別に、予測値と実際の搬送者数の比較したところ、大阪府、愛知県、宮城県ではほぼ同様の傾向となり、屋内搬送者は1日当たりの平均誤差が大阪5.4人/日、愛知5.0人/日、宮城2.1人/日であり、予測式とよく一致していた。このことから、ステイホームの影響で屋内に留まる人の割合は多くなっていたが、屋内からの熱中症搬送者は、例年と傾向は変わらないことがわかった。屋内の搬送者の7割程度が高齢者であり、搬送者数はステイホームの影響を受けないことも考えられた。
屋外搬送者においては、お盆明け(8月20日頃)に予測値を上回った日があった。また、人口動態を考慮した予測値に着目すると、お盆時期においてのみよく合致しており(大阪府、愛知県、宮城県の平均誤差:5.0人/日、考慮しない予測値:24.9人/日)、コロナ禍によるステイホーム(外出の自粛)の影響がみられた。一方、それ以外の期間では人口動態を考慮しない予測値と合致しており、人口動態が異なるにもかかわらず、熱中症搬送者数が減少していなかった(3府県平均誤差、人口動態を考慮しない予測値:5.9人/日、人口動態を考慮した予測値5.3人/日)。これは、ステイホームに伴う暑熱順化の遅れ、体力低下により、同じ作業を行った場合でも、多くのエネルギーを消費、体温上昇しやすくなるなどの影響を示唆した。
東京で予測値を上回る、帰省の自粛/体力低下/気象などが複合的に影響か
一方、東京都は3府県と異なる傾向となり、特にお盆期間中の屋内において予測値を大きく上回る結果となった。屋外においても予測値を上回る傾向となっていた。詳しい原因は不明だが、コロナ禍による帰省の自粛、また3府県と同様、ステイホームによる体力低下などが複合的に影響している可能性がある。加えて、東京都は他の3府県と比べて、お盆前が比較的涼しく、お盆時期に急に暑くなったことも相まって、推定値との相違が多くなった可能性もあるという。
これらの結果から、コロナ禍により人口動態は大きく変化したものの、屋内/屋外の熱中症搬送者数の変化は小さいものと考えられるという。「今後、熱中症リスクの低減に向けた啓発活動に利用していくこと、また、救急搬送される患者数の推定などへの応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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・名古屋工業大学 プレスリリース