多発性骨髄炎とIFN-γの作用障害との関連性に着目
広島大学は6月23日、メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(MSMD)におけるIFN-γの作用障害が、骨吸収を担う「破骨細胞」の活性化を介して、多発性骨髄炎を引き起こす可能性を新規に見出したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科小児科学の岡田賢教授、同・小林正夫名誉教授、津村弥来研究員、広島赤十字・原爆病院小児科の三木瑞香副部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に掲載されている。
画像はリリースより
MSMDは、細胞内寄生菌(BCG、非結核性抗酸菌、サルモネラ菌など)による感染症を繰り返す、非常にまれな遺伝性の免疫疾患。細胞内寄生菌の排除に際しては、マクロファージなどの食細胞が重要な役割を果たす。細胞内寄生菌は通常、IFN-γにより活性化された食細胞により排除される。細胞内寄生菌を取り込んだ食細胞はIL-12を産生する。IL-12は、IL-12受容体β1(IL-12Rβ1)を発現したT細胞、NK細胞に作用し、IFN-γの産生を促す。IFN-γは、IFN-γ受容体1(IFN-γR1)を発現した食細胞を活性化させ、取り込んだ細胞内寄生菌の排除を促す。このように、細胞内寄生菌の排除には、IL-12とIFN-γの共同作業が重要であり、IL-12のシグナルに障害がある(IFN-γの産生障害がある)、もしくは食細胞におけるIFN-γの作用障害があることでMSMDを発症する。
IFN-γの作用障害を示すIFN-γR1異常症あるいはSTAT1異常症の患者では、多発性骨髄炎を頻発することが知られている。一方、IL-12の作用が障害されたIL-12Rβ1異常症(二次的にIFN-γの産生が障害される)では、多発性骨髄炎の報告は多くない。そこで研究グループは今回、多発性骨髄炎とIFN-γの作用障害との関連性に着目して研究に取り組んだ。
IFN-γR1異常症やSTAT1異常症では、IFN-γによる破骨細胞の形成や骨吸収の抑制が障害されている可能性
IFN-γR1異常症あるいはSTAT1異常症の患者の多発性骨髄炎は、溶骨性変化を示唆するレントゲン所見を示す。そこで、多発性骨髄炎の病巣部から得られた組織を詳しく調査したところ、破骨細胞の特異的マーカーであるTRAPで染色される多核細胞の増加を検出。TRAP陽性細胞は破骨細胞を反映することから、多発性骨髄炎の病変部には破骨細胞が多数存在しており、破骨細胞による骨を溶かす作用(骨吸収)が亢進していると研究グループは推測した。破骨細胞は、細胞内寄生菌の排除を担うマクロファージと同じ系統に属する細胞。過去の研究で、IFN-γが破骨細胞の形成や、その機能(骨吸収)を強力に阻害することが知られている。そのため研究グループは、IFN-γの作用が障害されたIFN-γR1異常症やSTAT1異常症では、IFN-γによる破骨細胞の抑制が上手く働かず、感染局所で破骨細胞の増生と、それによる骨吸収が過剰に起こると考えた。
その仮説を証明するため、患者、健常者の骨髄細胞から破骨細胞を分化誘導し、それに対するIFN-γの影響を調査した。まず、患者、健常者の骨髄細胞は、一定の条件下で破骨細胞に分化することを確認。次に、IFN-γにより破骨細胞の分化抑制を試みたところ、健常者では低濃度のIFN-γで抑制されたのに対し、患者では高濃度のIFN-γが抑制に必要だった。このことから、患者においてIFN-γによる破骨細胞の分化抑制が障害されていることが判明した。さらに研究グループは、IFN-γによる破骨細胞の機能抑制(骨吸収の抑制)を調査。健常者では、低濃度のIFN-γにより骨吸収の抑制が可能だったが、患者では骨吸収の抑制に多量のIFN-γが必要だった。このことから、患者においてIFN-γによる破骨細胞の骨吸収の抑制が障害されていることが判明した。
これらの結果から、IFN-γR1異常症やSTAT1異常症では、「IFN-γによる破骨細胞の形成や、骨吸収の抑制」が障害されており、それにより多発性骨髄炎が頻発する可能性が考えられた。
発性骨髄炎の病態解明と新規治療法の開発につながることに期待
今回の研究成果により、IFN-γR1異常症やSTAT1異常症では、IFN-γによる破骨細胞の形成や骨吸収の阻害が不十分であり、そのことが頻回な多発性骨髄炎の原因となる可能性が示唆された。多発性骨髄炎は、MSMDのみならず自己炎症性疾患などの他の病気でも時に認める病態だ。
「研究をさらに発展させることで、さまざまな疾患でみられる多発性骨髄炎の病態を明らかにするとともに、病態に基づく治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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