細菌感染性の下痢の死亡率を改善する食事要因はほとんど特定されていなかった
慶應義塾大学は6月9日、アミノ酸、特にグルタミン酸の摂取が、個体の飲水量を増加させることにより、細菌感染性の下痢に伴う脱水症を抑えることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大薬学研究科の君塚達希修士課程生(研究当時)、同薬学部の金倫基教授、明治ホールディングス株式会社を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrients」に掲載されている。
画像はリリースより
世界保健機関(WHO)は、1日に3回以上の軟便または水様便が見られる、またはその人にとって通常よりも頻繁に排便があることを下痢と定義している。急性の下痢性疾患は現在、世界中で最も重要な健康問題の1つとなっており、特に発展途上国の幼児に多く見られる。
世界中で最も蔓延している下痢性疾患として、細菌感染性下痢が挙げられる。下痢性疾患において、栄養状態は罹患率および死亡率に影響する非常に重要な因子として知られている。例えば、食事性タンパク質による栄養管理は、持続性の下痢や便の排出量の減少に効果的だ。また、特定のアミノ酸が腸の炎症を抑制することも報告されている。しかし、細菌感染性の下痢の死亡率を改善する食事要因は、僅かしか特定されていない。
アミノ酸食が飲水量を増加させ、感染性の下痢に伴う脱水症を強く抑制
研究グループは、まず、食事因子、特にタンパク質成分が感染性下痢症に与える影響を明らかにするため、通常食(タンパク源:ミルクカゼイン)またはアミノ酸食(通常食のタンパク成分をすべてアミノ酸に置換した飼料)を与えたマウスに、腸管病原細菌で感受性マウスに致死的な感染性下痢症を引き起こすCitrobacter rodentiumを感染させ、生存率を比較した。その結果、通常食摂餌群では感染2週間以内にほとんどのマウスが死亡したのに対し、アミノ酸食摂餌群では大部分のマウスが生存していた。
そこで次に、アミノ酸食が腸管感染後の生存率を上昇させる要因を検証した。まず、両飼料摂餌マウスにC. rodentiumを感染させた後の糞便中の菌数を比較したところ、両群に違いは見られなかった。また、炎症病態にも差が見られなかったことから、アミノ酸食は病原菌の腸管への定着や炎症病態には影響しないことが示唆された。同研究で用いている腸管細菌感染モデルでは、下痢による脱水症がマウスの死亡と関連していることから、感染後の脱水状態を両群で比較。その結果、脱水時に高値となる血液尿素窒素(BUN:Blood urea nitrogen)の値が通常食摂餌群と比べて、アミノ酸食摂餌群で感染後6日目に有意に低下していた。このことから、アミノ酸食が感染性下痢による脱水症を抑制していることがわかった。さらに、アミノ酸食では飲水量が増加していることも観察された。
アミノ酸食の摂取で血中や腸内のグルタミン酸濃度が高くなり、腸内細菌叢も変化
血中アミノ酸濃度と飲水量との間に関連があることや、食事の変化が腸内細菌叢の組成に影響することが知られていたため、両群の血漿・糞便中のアミノ酸濃度や腸内細菌叢の組成を比較した。その結果、通常食摂餌群と比べてアミノ酸食摂餌群では、血漿および糞便中でグルタミン酸の濃度や、Erysipelotrichaceae菌群の割合が高いことがわかった。
そこで、アミノ酸食摂餌群の血中・腸内で増えていたグルタミン酸を経口的に投与したところ、飲水量が増加することがわかった。また、グルタミン酸を投与することにより、C. rodentium感染後のBUNの値も対照群と比べて有意に低下し、マウスの生存率も著明に上昇した。
アミノ酸の摂取により、血中および腸内のアミノ酸バランス、腸内細菌叢が変化し、さらに、飲水量も増加することが判明。また、この飲水量の増加によって、感染性の下痢にともなう脱水症を強く抑制できることも明らかになった。さらに、アミノ酸摂取により、血中および腸内の濃度が上昇するグルタミン酸を経口的に摂取することによっても同様の効果があることを発見した。
感染性の下痢による脱水症だけでなく、かくれ脱水も予防できる可能性
ヒトは年齢を重ねるごとに、体内水分量が徐々に減少する。また、喉の渇きを感じる口渇中枢の働きも加齢とともに衰えるため、水分が必要な状態にあっても喉の渇きを感じにくくなる。一方、乳幼児も必要水分量が多いことが知られている。そのため、高齢者や乳幼児は、脱水症になるリスクが高いと言われている。
「本研究成果は、アミノ酸摂取が感染性の下痢による脱水症に対してだけでなく、脱水症リスクの高い高齢者や乳幼児のかくれ脱水を予防できる可能性を示唆するものであり、今後の実用化が期待される」と、研究グループは述べている。
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