日本たばこ産業(株)(JT)は、8月6日、同社が開発し、英グラクソ・スミスクライン社(GSK社)に導出している「MEK阻害剤(そがいざい)」が、米国食品医薬品局(FDA)に新薬承認申請されたことを発表した。
「ERK MAPキナーゼ経路(Raf-MEK-ERK)」とよばれる、細胞の増殖を司るシグナル伝達システムがある。
この経路が異常に活性化されると、細胞が癌化することで知られているが、この経路の構成分子のリン酸化酵素が、MEKだ。
がんや免疫・炎症系領域の一部疾患には、正常細胞が持つ増殖制御機能の失陥による細胞増殖が関与している。
MEK阻害剤は、その名の通りMEKの働きを阻害する薬剤で、細胞増殖のシグナル伝達を遮断し、細胞増殖を抑制することでがんなどの治療に使われる。
今回FDAに承認申請されたJT創製のMEK阻害剤の名称は、「トラメチニブ:trametinib」。
2006年4月の前臨床試験段階でGSK社へ全世界での「独占的開発権・商業化権」を導出しており、その後の開発もGSK社が行ってきた。
そして、6月1日から米国シカゴで開催された第48回米国臨床腫瘍学会でついに、BRAF変異のある進行メラノーマ患者の無増悪生存期間と全生存期間を有意に延長することが発表された。
それにより、GSK社がFDAに、「BRAF V600遺伝子変異陽性の切除不能または転移性メラノーマを適応症」として新薬承認申請にいたったという。
BRAF遺伝子とは、細胞内の信号伝達と細胞増殖に関与している「B-RAF」という蛋白(たんぱく)を作る遺伝子のこと。
多くのがんでBRAF遺伝子の変異が認められており、変異によりB-RAF蛋白が活性化している状態が継続すると、がん細胞の増殖や転移が促進されるという。
皮膚がんの一種で、悪性黒色腫とも呼ばれるメラノーマ患者の約6割に、このB-RAF蛋白のV600に変異が認めれるという。
メラノーマは、転移後の発見となった場合、致死率、悪性度が皮膚がんの中で最も高いがん腫。
同集団への選択的BRAF阻害薬による治療も行われてきたが、化学療法と比較し生存を改善するものの、その多くは短期間だった。
一方でMEK阻害薬については、BRAF変異のある患者を対象とした試験で、腫瘍退縮と病勢安定のエビデンスが示され、化学療法よりも3か月以上延命可能となる結果も確認されている。
今回の申請が承認されることで、新規のメラノーマ治療薬として期待がよせられている。
▼外部リンク
日経プレスリリース:JT、英GSK社が導出品「MEK阻害剤」をFDAに新薬承認申請
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=316131&lindID=4
JTウェブサイト
http://www.jti.co.jp/
グラクソ・スミスクライン社ウェブサイト
http://glaxosmithkline.co.jp/