サルコペニアのより適切な評価のため、加齢の影響が大きい「大腿四頭筋」に着目
名古屋大学は6月9日、サルコペニアのより的確な診断方法を検討するため、大腿中央部を撮影したCT画像より計測される大腿四頭筋の筋肉の量と質に注目し、性別・年代別での違いや膝伸展筋力との関係性について明らかにしたと発表した。この研究は、国立長寿医療研究センターの荒井秀典理事長、ロコモフレイルセンターの松井康素センター長、老化疫学研究部(旧 NILS-LSA活用研究室)の大塚礼部長、名古屋大学大学院医学系研究科整形外科学の水野隆文博士課程生(長寿医療研究センター研究生)らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」のweb版に掲載されている。
画像はリリースより
2018年にThe European Working Group on Sarcopenia2(EWGSOP2)は、サルコペニア診断の主要なパラメーターとして筋肉量だけではなく、筋肉の質にも焦点をあてている。骨格筋の質的な変化は、速筋繊維のサイズの減少、骨格筋内や筋間脂肪の増加、筋肉の線維化などによって引き起こされると考えられている。CTやMRIなどの画像診断装置では横断面の構成要素を細かく評価することができ、筋質の評価にも有用である可能性がある。特にCTに関して言えば、CTにより計測できる濃度(CT値)を利用して、大腿部や腹部の筋肉の脂肪化の程度を評価する試みがなされてきた。
加齢により、下肢では上肢の2倍近い筋肉量の減少を示すとされるように、加齢性変化は下肢で明らかであり、研究グループはこれまでに、大腿の前側に位置する大腿四頭筋が、ハムストリングスなどの大腿後方の筋肉と比較して加齢による筋量の低下が著しいことを報告している。そのため、大腿四頭筋についての詳細な評価がサルコペニアのより適切な評価につながる可能性があると推察。生体の中で加齢による影響が顕著な大腿四頭筋に焦点をあて、その筋肉の断面積とCT値の性別・年代別の分布を、構成筋ごとに詳細に調査し、また膝伸展筋力との関係を調査・検討した。
日本人の年齢・性別の違いで大腿四頭筋の筋肉量・質に違いがあることが判明
今回の研究は、1997年より継続実施されている「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)のうち、第七次調査(2010~2012年)を利用した研究の一環として行われた。520人の中高年の地域住民(男性273人、女性247人、平均年齢63.1歳)を対象に、右大腿中央部CT画像を撮影。専用のCT画像解析ソフトで、大腿四頭筋全体や4つの構成する筋肉(大腿直筋、内側広筋、外側広筋、中間広筋)と、筋間脂肪別に筋断面積(筋肉の量の指標)、CT値(筋肉の濃度、筋肉の質の指標)を計測した。年齢、性別、身長、BMI、既往歴、喫煙歴、アルコール摂取量、食事摂取量、身体活動量などの参加者の背景因子と、握力、膝伸展筋力、DXA法で計測した全身筋量などのサルコペニアと関連のある測定項目を利用して解析を行った。なお、日本人において大腿四頭筋の断面積・CT 値を合わせて性・年代別に報告されたのは今回が初となる。
筋断面積、CT値は多くの場合で男性が女性よりも高い数値を示すことが判明したが、大腿直筋ではCT値に男女差を認めないなど、他とは異なる特徴が認められた。また、男性は断面積もCT値も高齢になると、加速度的に低値を示すようになることが判明。男性と女性では年齢が筋肉に与える影響の程度が異なると推測された。
大腿四頭筋は膝を伸ばす際には最も大きな役割を果たす筋肉であるため、膝伸展筋力との関係を確認したところ、大腿四頭筋全体の断面積、CT値はともに膝の伸展筋力に関連していることが判明。さらに、構成する4つの筋を分けて詳細に検討すると、膝伸展筋力と構成する筋肉の関係性は男女で異なることが判明し、女性において中間広筋のCT値が関係を示すなど、筋量を表す断面積のみでなく、筋質を表すCT値においても、大腿四頭筋毎に異なるという特徴を認めた。
より的確なサルコペニア診断方法の確立、運動介入方法の開発に期待
今回の研究成果により、高齢になるほど筋肉の量も質も、男性が女性と比べて急激な低下を示すことや、膝伸展筋力には量も質も関係していることが明らかにされた。また、大腿四頭筋を4つの細かい筋肉に細分化した詳細な検討でも、筋肉毎に筋力への関係度合いに男女差があることなどが明らかになった。
「今後はこれらの情報をもとに、CTでより的確なサルコペニア診断方法の確立、他の診断機器での評価への応用、質の低下する筋肉へ焦点を当てた運動介入方法の開発などへつながっていくことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース