エコチル調査・山梨県内参加者396人対象に
山梨大学は5月28日、環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の山梨県内の参加者を対象に、子どもの足の浮き指の頻度と、立っている姿勢の安定性(静止立位安定性)との関係を調査した結果を発表した。この研究は、同大エコチル調査甲信ユニットセンター(センター長:山縣然太朗社会医学講座教授)整形外科講座の藤巻太郎特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの足は、体重を支え、衝撃を吸収し、歩行する、など重要な役割を果たしている。その中でもつま先は、立つときの体の安定性を保つために接地し、歩行時の負荷の分散など健康的な日常生活を維持するために重要と考えられている。
最近、生活様式や生活習慣の変化に伴い、また子どもの外遊びの頻度の低下などによるつま先の機能不全に関連して、浮き指(floating toe)が注目されている。浮き指とは、立っているときにつま先が地面に接触せず、歩行中に体重がつま先に移動しない状態と定義されている。
成人の報告では、浮き指により、重心が移動した際に支える力が低下し、立っている姿勢の安定性(静止立位安定性)も低下することで転倒しやすくなったり、歩幅や歩行速度などにも影響を及ぼしたりするとされている。しかし、子どもの浮き指が身体に及ぼす影響、特に静止立位安定性への影響については明らかではない。
そこで、今回研究グループは、浮き指の頻度と子どもの静止立位安定性との関係を調べた。対象は、2019年7月~2020年2月にエコチル調査8歳学童期総合健診に参加した子ども400人のうち、静止立位安定性検査を受けた396人(男児:180人、女児216人)とした。
浮き指の頻度は開眼時で男児95.6%、女児97.7%
平衡機能測定装置(win-pod)を用いて、圧力の中心から重心動揺を計測し、足の指の圧力から浮き指スコア(Floating Toe Score)を計測。浮き指スコアは足の親指~小指それぞれの指の接地程度を点数化したもので、1つの指につき、完全接地を2点、不完全接地を1点、まったく接していないものを0点とし、両足のすべての指の合計は20点満点となる。18点以上を正常、17~11点を不完全接地、10点以下を浮き指とする。
重心動揺は、総軌跡長(圧力の波形を1本の線にした長さ)と、COP(Center Of Pressure)面積(波形に接する楕円の面積)を計測した。計測は、装置の上に裸足で10cm程、両足を開いて正面を向き20秒間静止し、目を開けた状態2回と目を閉じた状態2回を測定し値の小さい方を採用した。
調査の結果、目を開けた状態での浮き指スコアの平均は男児3.7点、女児3.6点であり、浮き指の頻度は全体では96.7%、男児95.6%、女児97.7%となった。
また、目を閉じた状態の浮き指スコアは、目を開けた状態よりも有意に大きくなった(目を閉じた状態の平均:男児4.9点、女児4.4点)。立位の不安定性を示す総軌跡長とCOP面積も、目を閉じた状態の方が目を開いた状態よりも有意に大きくなったという。
閉眼時、地面につま先接触で安定化を示唆
目を開けた状態と、閉じた状態ともに重心動揺と浮き指スコアとの間に有意に正の相関関係を示した。この研究から7~8歳児の浮き指の頻度が非常に高いことが示され、浮き指が子どもの立っている姿勢の安定性に直接関係していないことがわかったとしている。
しかし、目を閉じて不安定になる状況では、つま先を地面に接触させ安定させようとすることが示唆された。少なくとも7~8歳児時点では、浮き指は非常に高い頻度だが、姿勢の安定性とは直接的な関係がなく、病的な重要性はほとんどないと考えられるとしている。
浮き指と静止立位安定性の間に直接的な関係は示されず
今回の研究では、浮き指と静止立位安定性の間の相互関係を調べ、浮き指スコアが高い(=浮き指ではない)場合に静止立位安定性が低い結果となり、浮き指と静止立位安定性の間に直接的な関係は示されなかった。これには、他にもさまざまな要因が複雑に関係していると推測される。
エコチル調査では、重心動揺検査のほかに本人と親の身体運動習慣、血液検査、体脂肪や筋肉量などの体組成、パソコンを使った発達検査などさまざまなデータの測定もされている。研究グループは将来的に、これらのデータをより多面的に使用して、子どもの浮き指と姿勢の安定性を調査する予定だという。さらに、子どもが成長するにつれて浮き指の頻度は減少するのか等についても調査したいとしている。
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・山梨大学 プレスリリース