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母体由来のタウリンが胎児期の正常な脳発達に必須のメカニズムを解明-SUMSほか

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2021年05月28日 AM11:30

胎児の神経幹細胞の分化において、母体由来のタウリンの役割は?

浜松医科大学は5月27日、妊娠期母体由来タウリンがGABAA受容体の結合因子として、神経系の細胞に分化する神経幹細胞の時系列的変化を制御し、胎児の神経発達に関与することを発見したと発表した。この研究は、鈴鹿医療科学大学保健衛生学部の栃谷史郎准教授(浜松医科大学訪問共同研究員)、浜松医科大学神経生理学講座の福田敦夫教授、福井大学子どものこころの発達研究センターの松﨑秀夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cerebral Cortex」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

生体では食物中のタウリンが腸管で吸収され、血液を介して全身の細胞に運ばれ利用している。また、肝臓などの細胞でシステインやメチオニンなどの含硫アミノ酸から合成されたタウリンも利用している。哺乳類の胎児、特にヒトを含む霊長類の胎児や新生児では、タウリン合成能が低く、胎盤や母乳を介して母親から子へ授与されるタウリンが子の正常発達には必要とされる。胎児は母親の子宮の中で羊膜に包まれ、羊水の中に浮かんでいるが、特に羊水に含まれるタウリンの濃度は母体血液中のタウリン濃度より高く、何らかの濃縮するメカニズムやその生物学的意義があると考えられている。また、哺乳類母乳にはタウリンが豊富に存在し、アミノ酸の中ではグルタミン酸に次いで多く含まれている。

発生期の大脳皮質を構成する神経細胞は全て神経幹細胞が分化して生じる。神経幹細胞の分化は特定の発生時期に始まり、6層からなる大脳皮質の神経細胞のうち深層の神経細胞、表層の神経細胞がそれぞれこの順に決まったタイミングで神経幹細胞から分化する。この神経幹細胞にはGABAA受容体が発現しているが、その働きは明らかになっていない。また、GABAA受容体の主要なリガンドとして、抑制性神経伝達物質であるγアミノ酪酸(GABA)とタウリンが知られていたが、発生初期の脳にはGABAを分泌する細胞はほとんど存在せず、実際に何がGABAA受容体の機能を調節しているかは不明だった。

タウリンは胎生13日目以前の時期でもGABAA受容体のリガンドとして働く

今回研究グループは、まずGABAA受容体が神経幹細胞の神経細胞分化の開始、深層の神経細胞への分化から表層の神経細胞への分化への移行など、発生の時系列に伴う神経幹細胞の性質制御に関与することを、妊娠マウスを用い薬理学的に明らかにした。

次に、生理学的手法を用いて、神経幹細胞におけるGABAA受容体の応答性をGABAとタウリンで比較したところ、GABAは胎生13日目以降にのみ神経幹細胞のGABAA受容体を刺激するのに対し、タウリンは胎生13日目以前の時期でも神経幹細胞のGABAA受容体の応答を引き出すこと(つまり、GABAA受容体のリガンドとして働くこと)を発見した。

胎生10~12日目の胎仔脳でタウリンを阻害、出生後に神経発達障害に類似した異常行動

また、胎盤を介したタウリン輸送に関わるタウリントランスポーターのノックアウトマウスの胎仔脳ではほとんどタウリンが観察されず、神経幹細胞の神経細胞への細胞分化の抑制傾向など、GABAA受容体を薬理学的に阻害した場合と同様の表現型が観察されたこともわかった。

神経幹細胞が直接脳室の脳脊髄液に接していること、発生初期の脳脊髄液は羊水に由来することから、タウリントランスポーターのノックアウトマウスの胎児の羊水に人為的にタウリンを注入したところ、これらの表現型が部分的ではあるが正常化され、タウリンがGABAA受容体を介して神経幹細胞の性質を制御していることが示された。

さらに、研究グループはタウリンだけがGABAA受容体の主要なリガンドとして働く胎生10~12日目にかけて、胎仔脳のGABAA受容体の機能を薬理学的に阻害し、そのうえでマウスが十分に発達成熟する出生後8週における行動を観察したところ、新奇マウスへの関心の低下や低活動などの神経発達障害に類似した異常行動を呈すことを発見した。

母から胎児へのタウリン移行量の低下が、脳発達異常の原因の可能性

今回の研究から、胎児期母体由来タウリンが神経幹細胞の性質制御という神経発達の枢軸となる現象を調節することが明らかになり、妊娠期のある一時期の母から胎児へのタウリン移行量の低下が原因で脳発達に異常が生じ、将来において行動の変容が引き起こされる可能性が示唆された。

ヒトの脳発達におけるタウリンの役割については、早産児のうち出生直後の血漿中のタウリン濃度が低い児において、出生直後の血漿タウリン濃度が正常な児に比べて生後18か月や7歳時における心理発達のテストの成績が低いという報告がある。タウリン摂取量は食事内容や食物摂取量(カロリー摂取量)に依存する。ヒトにおいて妊娠中の肥満や妊娠高血圧腎症が胎盤におけるタウリントランスポーターの活性の低下を引き起こすという報告もある。

「今後はヒトにおいて、どのような環境要因が妊娠期の母から胎児へのタウリン移行量の低下を引き起こすか、母から胎児へのタウリン移行量の低下が児の脳発達にどのような影響を与えるか、などを明らかにし、児の脳発達を促進するための妊娠期のライフスタイルの提案につなげることを目標に研究を進めたい」と、研究グループは述べている。

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