GVHDにおけるTreg細胞の機能不全は、どのようにして起こるのか
筑波大学は5月17日、ヒトのTreg細胞上に発現する免疫受容体「DNAM-1」の機能を阻害する抗体が、GVHDの発症を抑えることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の澁谷和子准教授とTNAX Biopharma株式会社 研究開発部 アソシエイトリサーチサイエンティストの阿部史枝氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されている。
画像はリリースより
移植片対宿主病(Graft-versus-host disease, GVHD)は、造血器悪性腫瘍や再生不良性貧血に対する治療として行われる同種造血幹細胞移植における最も重篤な合併症であり、移植の成否を左右するばかりでなく、生命予後にも直接影響する。移植後100日以内に発症する急性GVHDの主因は、全身性の炎症を伴う過剰な免疫応答であり、特に肝臓、皮膚や消化管が主な標的臓器となる。急性GVHDに対する現行の治療は、副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制剤が第1選択だが、抵抗性を示すことも多く、より優れた治療法の開発が急務となっている。
GVHDが増悪する一因として、免疫抑制機構の中枢を担う制御性T細胞(Regulatory T細胞, Treg細胞)が機能不全に陥ることが知られている。しかし、GVHD病態におけるTreg細胞の機能がどのように制御されているか、その分子機構の全容はいまだ明らかになっていない。Treg細胞を標的としたGVHDの治療法開発を目指す上で、Treg細胞の活性化を制御する機構を解明することは、基礎的および臨床的に極めて重要な意義を持つ。
抗ヒトDNAM-1阻害抗体がGVHD病態を抑制することの観察に初めて成功
免疫細胞は、細胞膜上に発現する受容体と呼ばれる分子によって周囲の環境を感知し、免疫応答の調節を行っている。研究グループは今回、GVHD病態の際に発現が上昇する免疫細胞に発現する受容体として、DNAM-1に着目した。
まず、DNAM-1の阻害がヒト免疫細胞に与える影響を検証するため、健常人末梢血単核球を重度免疫不全マウスに移植してGVHDを誘導し、抗ヒトDNAM-1阻害抗体投与後の生存率と末梢血細胞の解析を行った。その結果、抗ヒトDNAM-1阻害抗体投与は、顕著に生存期間を延長させ、末梢血中のTreg細胞の割合を上昇させた。これは、抗ヒトDNAM-1阻害抗体がGVHD病態を抑制することを初めて観察したものだという。
DNAM-1はTIGITと同一リガンドに対し競合し、Treg機能を抑制すると判明
次に、DNAM-1の阻害効果がTreg細胞に作用していることを確かめるため、DNAM-1を遺伝的に欠損させたマウスのTregs細胞の機能を、GVHDマウスにおいて評価したところ、通常のTreg細胞と比べて、飛躍的にマウスの生存期間を延長させることを見出した。さらに、GVHDマウスの解析を行ったところ、DNAM-1を欠損したTreg細胞は、通常のTreg細胞よりも小腸の組織傷害を軽減させ、組織傷害に寄与するエフェクターT細胞の浸潤を減少させた。また、DNAM-1がTreg細胞の機能を制御する分子機構を解き明かすために、シングルセルRNAシーケンスを駆使した解析を行い、DNAM-1がシグナル伝達経路の一つであるAKT-mTORC1経路を介して、Treg細胞の機能の中枢となるマスター転写因子Foxp3の発現を抑制していることを突き止めた。
さらに詳細な解析を行うと、DNAM-1は、Treg細胞に高発現するもう一つの免疫受容体TIGITと、共通のリガンドに対する結合において競合し、Treg細胞の機能を抑制することが判明した。TIGITがTreg細胞の機能に重要であることは、これまでに多数報告されており、今回の研究は、TIGITの機能を調節する因子としてDNAM-1を新たに見出し、炎症環境下におけるTreg細胞の機能調節の一端を解明したものと言える。
抗ヒトDNAM-1阻害抗体を用いた、Treg細胞を標的とする疾患の治療法開発に期待
ヒトおよびマウスTreg細胞の機能を亢進させるという観点から、抗ヒトDNAM-1阻害抗体はGVHDの治療薬として有望だ。「Treg細胞の機能不全を伴う炎症性疾患や自己免疫病などは、近年増加傾向にあり、今後、抗ヒトDNAM-1阻害抗体を用いた、Treg細胞を標的とする炎症性疾患や自己免疫病の治療法開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL