マウス胚発生におけるCables2遺伝子座の役割を解析
筑波大学は5月12日、哺乳類の胎児発生に必要な遺伝子座を発見したと発表した。この研究は、同大医学医療系/トランスボーダー医学研究センター/生命科学動物資源センターの杉山文博教授、Tra Thi Huong Dinh助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「eLife」に掲載されている。
画像はリリースより
哺乳類のCables ファミリーには2つのタンパク質があり、1つがCables1、もう1つがCables2だ。研究グループはこれまでに、Cables1がマウスの脳梁形成に深く関わっていることを明らかにしてきた。Cables1は、in vitroおよびin vivoにおいてその機能が明らかになってきたが、Cables2は個体レベルで何のために働いてしているのかは全く研究されていなかった。Cables2は、哺乳類や鳥類、魚類など脊椎動物に存在する遺伝子で、その分子構造から他の酵素の働きを仲介する基質として機能するものと考えられている。
発育する哺乳類個体での遺伝子機能の解明に最も効果的な方法は、標的遺伝子を操作した遺伝子改変マウスの作製とその表現型の解析だ。今回、研究グループは、複数の遺伝子改変マウスを作製・解析し、Cables2遺伝子座がマウスの胚発生にどのように関わっているかを検討した。
Cables2欠損の原腸胚で隣接遺伝子Rps21の発現が半減、p53発現は増加
Cables2遺伝子座はマウスの第2番染色体のテロメア側に位置し、10個のエクソンからなる。Cables2の個体レベルでの機能を解明するため、これを完全に欠損するCables2dマウスモデルを作製した。このCables2dマウスでは、胎生6.5日の原腸胚から発育遅延が見られ、胎生7.5日目で細胞死が増加し、その後胚性致死することが明らかになった。
次に、Cables2dの原腸胚でどのような遺伝子の発現に異常をきたしているのか調べたところ、Cables2遺伝子の発現がないことはもちろんのこと、染色体上においてCables2に隣接するRps21遺伝子の発現が50%低下し、一方で細胞死に関わるp53の複数の標的遺伝子の発現が増加していた。
Cables2欠損<Rps21を抑制<p53経路亢進<胚性致死
胚性致死におけるCables2とRps21の機能的関係を明らかにするため、Cables2遺伝子発現のみが欠損するマウス、Rsp21遺伝子発現のみが欠損するマウス、さらに外来性Cables2遺伝子を発現するCables2dマウスを作製し、その胚発生を検討した。結果、原腸胚形成においてCables2遺伝子座の完全欠損がRps21遺伝子発現を抑制させること、Rps21遺伝子の発現低下はp53経路の亢進を介して胚性致死を導くこと、一方でCables2遺伝子発現はそのp53経路亢進による影響を回避する働きがあることが明らかになった。
今回の研究により、Cables2とRps21が未知の機構でマウスの原腸胚形成に関わっているという新規の知見が得られた。原腸胚は、急速に細胞増殖を促進させ、細胞死に対し感受性が高く、外胚葉、中胚葉、内胚葉へと分化する極めて重要な胚発生時期。今後、研究グループは、原腸胚におけるRps21の減少がどのような機構でp53を活性化させるのか、一方でCables2がp53の活性をどのように抑制するのかを解明していく予定だとし、これらの研究を通して、原腸胚形成の分子機構に新しい視点が開かれると共に、がん抑制遺伝子であるp53の新たな抑制機構の発見が導かれる可能性があるとしている。
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・筑波大学 プレスリリース