済生会熊本病院の中尾浩一院長は4月22日、GEヘルスケアジャパンが開いた成長戦略発表会で、医療現場でのデジタルトランスフォーメーション(DX)推進について、同院での取り組みを紹介した。講演で中尾氏は、「DX推進には、技術と組織文化、両方の変革が必要だ」と強調した。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、医療現場へのデジタル技術導入の遅れが浮き彫りとなった。中尾氏は講演で、「医療の伝統的な価値観は、寄り添う、支える、優しい、切れ目ないなど、直観的・情緒的だ」と説明。一方、デジタル化は「不連続、非接触、リモートが特徴的で、考え方としては実証的・論理的だ」として、こうした価値観の違いが医療分野でデジタル化が遅れている背景にあるとした。
経済産業省が2018年に公表した「DX推進ガイドライン」では、DXの定義を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としている。これを踏まえ中尾氏は、「やみくもに情報システムの構築を進めても、なんの成果も得られないだろう」との考え方を示し、「技術と組織文化、両方の変革が必要で、特に医療者のマインドセットの変更が重要だ」と指摘した。
DX推進に向けたキーワードは「医療のモジュール化」
中尾氏は、DXを推進していくために実施してきた済生会熊本病院の取り組みとして、クリニカルパスの推進や病院の第三者評価であるJoint Commission International(JCI)認証の導入、地域医療連携の推進の3つを列挙。クリニカルパスの推進については、「医療を標準化して疾病管理プロセスをモジュールとして捉えることで、目標が明確となり、測定・評価・管理が可能になる」と述べた。済生会熊本病院では、構造化されたデータをもとに患者さんの状態を把握・抽出して可視化し、診療内容を改善するというプログラムを進めてきたという。具体的には、脳梗塞で在院日数が平均より延びている患者を調べると、バイタルサインが安定していないケース、特に38度以上の発熱が多いことが判明。その原因を分析したところ、誤嚥性肺炎の併発している確率が高いことが明らかになったという。この結果をふまえて、誤嚥性肺炎の発症を早期に発見するプログラムをクリニカルパスに組み入れ、診療内容が改善したと報告した。
JCI認証の導入については、「医療行為のプロセスをモジュール化するということで、デジタル化と親和性が高い」との見解を表明した。JCIは、国際基準の医療の質と安全を担保した医療施設を認定する米国の医療機能評価機構だ。中尾氏によるとJCIでは、患者が外来で受診してから退院するまでの診療全体が審査の対象。「プロセス、医療のシーンを分割すると、それぞれの場面での責任が明確になる。自身の責任の範囲が明確になると改善していくモチベーションがあがるため、医療の質・安全を各段に進歩させることができる」とした。
また地域医療連携は、地域における医療のモジュール化だという。中尾氏は、「面で質の高い医療を継続しようというもので、患者をやりとりすることだけが連携ではないという考え方に基づいている」と説明。済生会熊本病院から関連病院に転院した場合の、転院先での患者の死亡率や転院先から済生会熊本病院に戻ってくる患者の数について、分析・検討を行うとした。連携のあり方について中尾氏は、「今後の連携は、いわゆる顔の見える連携から、データを語り合う連携に進んでいく」との見方を示した。