人工重力環境、微小重力環境で生じる筋重量の減少と筋線維タイプや遺伝子発現の変化が抑制される
筑波大学は4月30日、人工重力環境では、微小重力環境で生じる筋重量の減少と筋線維タイプや遺伝子発現の変化が抑制されることを世界で初めて明らかにし、これまで知られていなかった、筋萎縮に関わる新しい遺伝子も発見したと発表した。この研究は、同大医学医療系/トランスボーダー医学研究センターの工藤崇准教授、高橋智教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
重力は一定の機械刺激であり、地球上の生物の進化にも影響を与える恒常的な要因だ。また、骨格筋は、重力や運動負荷に対応して、その構造や代謝を変化させることができる組織だが、急速な高齢化に伴い、骨格筋の量や機能を維持して健康的な生活を続けるための対策が求められている。
一方、宇宙に滞在した宇宙飛行士には、骨格筋量や骨量が急速に減少し、高齢者と類似した症状が見られることが報告されており、筋萎縮や骨粗鬆症のモデルと考えられている。
アトロジーン遺伝子発現変化も人工重力環境で抑制
今回の研究では、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した、遠心機による重力環境を変えることができるマウス飼育システムを利用して、重力が骨格筋に及ぼす影響を詳しく調査した。
国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」実験棟で、宇宙の微小重力環境と人工重力環境(1G)において、約1か月間マウスの長期飼育を実施した。その結果、ヒラメ筋では、微小重力環境下で地上対照と比べて筋重量15%減少。筋線維断面積の減少や筋線維タイプ構成の移行が観察された。しかし、人工重力環境ではと地上対照では明らかな違いはなかった。
さらに、ヒラメ筋のRNA-シーケンシングによる遺伝子発現プロファイルの結果も、人工重力環境と地上対照とは似ているものの、微小重力環境では全く異なっていた。これは、微小重力環境で変化する組織学的変化や遺伝子発現が、人工重力環境によって抑制されることを示す。
加えて、これまでの地上研究で筋萎縮に関与することが報告されている遺伝子群(アトロジーン)の発現変化が、微小重力環境でも同様に生じることが明らかになった。また、このアトロジーン遺伝子発現変化も人工重力環境によって抑制されることがわかった。
筋萎縮に関わる新規遺伝子候補遺伝子Cacng1も発見
続いて、このような筋萎縮のメカニズムを明らかにするために、遺伝子発現プロファイルを解析。その結果、筋萎縮に関わる新規の候補遺伝子(Cacng1)を発見した。このCacng1遺伝子を培養細胞およびマウス骨格筋で発現させたところ、筋萎縮が誘発されることが確認されたという。
今後予定されている月や火星探査に向けて、月(1/6G)や火星(3/8G)の重力影響についても、同様に解析することが重要だという。このような宇宙生物学における実験手法の発展は、筋萎縮を防ぐための方策の構築にもつながると期待される、と研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL