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ALS病態に重要なハブ遺伝子を発見、iPS細胞×スパコンの「iBRN法」で-慶大ほか

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2021年04月30日 AM11:25

「iPS細胞モデル×ベイジアン遺伝子ネットワーク解析」でALS分子経路を解析

慶応義塾大学は4月28日、産学連携共同研究の一環である武田薬品工業株式会社湘南インキュベーションラボプロジェクトにおいて、iBRN法と名付けた、iPS細胞由来神経細胞とスーパーコンピュータを駆使したベイジアンネットワーク解析手法を用いて、家族性筋萎縮性側索硬化症()を分子レベルで解析し、病態に重要なRNA発現のネットワークで中心的な役割を果たすハブ遺伝子群の発見に成功したと発表した。この研究は、武田薬品工業株式会社の野上真宏博士、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科脳機能形態学分野の矢野真人准教授、東北大学大学院医学系研究科神経内科の青木正志教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Neurobiology of Disease」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

ALSは、四肢の筋力低下などの症状を呈し急速に進行する運動ニューロン変性疾患として知られており、現在有効な治療法は少なく、その病態メカニズムも明らかになっていない神経難病。ALS 患者のおよそ10%は家族歴があり、その原因遺伝子としてTARDBP、FUSを含め RNA制御因子に関する変異した遺伝子などが複数報告されているが、その分子メカニズムについて、未解明な点が多く残されている。これまで研究グループは、ALSの病態解明のために、iPS細胞を用いた疾患モデル、および、薬物の作用を評価するための実験系を開発し、運動ニューロンの生存、神経突起退縮、タンパク質凝集に対して、ALSに有効な薬物群や新たな薬物の標的分子の候補群を探索してきた。

今回、研究グループは、ALSに見られるRNA制御の破綻の原因、あるいはネットワークの上位で幅広くRNA発現を制御するRNA制御因子の存在の可能性を考えた。そこで、iPS細胞由来神経細胞の解析から得た膨大なトランスクリプトーム情報を基に、研究グループの開発したiPS細胞モデルとスーパーコンピュータを駆使したベイジアン遺伝子ネットワーク解析を組み合わせたiBRN(”Non- biased” Bayesian gene regulatory network analysis based on induced pluripotent stem cell (iPSC)-derived cell model)法により、病態のRNA発現で中心的な役割を果たすハブ遺伝子群を同定することで、新たなALSの病態へ迫る新規手法の有効性の確認とALSの分子経路の解明を試みた。

病態関与のハブ遺伝子としてPRKDC、miR-125b-5p、TIMELESSを同定

研究グループは、健常者およびFUS遺伝子に変異(H517D)を持つALS患者由来の正常iPS細胞株と疾患iPS細胞株、およびゲノム編集によって同様の遺伝子変異(FUSH517D)を持つアイソジェニックiPS細胞株を分化誘導し、幼若運動ニューロンと成熟運動ニューロンの分化段階から得られたトランスクリプトーム情報を入手した。

得られた60種類のトランスクリプトーム情報を基に、スーパーコンピュータによるベイジアンネットワーク解析によって、miRNAやRNA結合タンパク質群を中心とした群間ネットワークの存在を考慮した有効非巡回グラフによる遺伝子ネットワークを可視化する解析を実施(iBRN法)。この解析では、候補の上位にあるハブ遺伝子群の中で、PRKDC、miR-125b-5p、TIMELESSに着目した。PRKDC遺伝子は、DNA損傷応答性のDNA依存性タンパク質リン酸化酵素の触媒サブユニット(DNA-PKcs)をコードしており、既にDNA-PKはFUSタンパク質の直接のリン酸化および、FUSタンパク質の細胞質移行を制御していることが報告されている。FUSがALSの原因遺伝子であることから、今回の解析でPRKDC遺伝子とALSとの関係が明らかとなり、iBRN解析の有効性を示唆するものとなった。

細胞モデルの解析で3遺伝子の分子病態関与を確認

研究グループは、細胞モデルの解析で、DNA損傷応答に加えてDNA-PKの活性の阻害がALSに見られるFUSタンパク質のストレス顆粒の異常凝集を導くという新しい知見も見出した。さらに、研究グループが新規に発見したmiR-125b-5p、TIMELESS遺伝子は、遺伝子の機能を阻害する実験によって、いずれも神経変性の原因となるDNA損傷を誘導することが確認されたとともに、遺伝子発現を負に制御するmiRNAのmiR125b-5p自身は、FUS遺伝子、TIMELESS遺伝子、PPP1CA遺伝子、DUSP6遺伝子、LIN28A 遺伝子の発現と逆の相関を示し、これらの遺伝子を直接標的とすることで、DNA損傷依存性の神経変性誘導のハブとして働いていることを細胞モデルにおいて実証するに至った。以上の結果は、iBRN法をヒト神経変性疾患の分子病因の探索に世界で初めて用いた研究であり、近い将来、原因不明な多くの疾患の分子病因の探索における新しいプラットフォームを提供するものと期待される。

iBRN解析は、従来の生命情報を解析するバイオインフォマティクス解析では対象とならないような機能未知の非コードRNAなども含め、完全データ駆動型で遺伝子発現情報の変動に対し最も重要な遺伝子群の同定を可能とする手法となる。つまり、従来では検出不可能であったALS病態における異常等を見出すことが十分に可能であることを示唆しており、ALS病態全容解明を推し進める強力なツールとなることが期待される。さらには、今回発見されたハブ遺伝子には、ALSだけでなくアルツハイマー病と共通の経路にある遺伝子群の関与が示唆されている。研究グループは、「本解析手法が幅広い原因不明の疾患の病因解明のツールとなることも期待される」と、述べている(QLifePro編集部)

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