WHO分類「RELA融合陽性上衣腫」、メカニズムの解明へ
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は4月26日、小児悪性脳腫瘍である「テント上上衣腫」において、これまで機能不明であったC11orf95遺伝子がさまざまな遺伝子と融合することで異常タンパク質の産生をもたらし、腫瘍を発生させることを発見したと発表した。この研究は、同センター神経研究所病態生化学研究部の川内大輔室長らと、ドイツがんセンター、ハイデルベルク大学との共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Discovery」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
上衣腫は、小児の大脳半球に生じる難治性の腫瘍。特にその予後は主に外科的手術の結果に左右されるため、腫瘍に効果的な化学療法が模索されてきたが、いまだがんシグナルに応じた効果的な治療は見つかっていない。他の脳腫瘍と同様、十数年前までは見た目(病理学的な解析)からがんの性質や悪性度を評価してきたが、近年は見た目に加えて中身(DNAメチル化状態や遺伝子発現など)を詳細に解析することにより、大きく分けて9つのグループに分類できることがわかってきた。
そのうち、大脳と小脳を分ける硬膜(テント)より上、すなわち主に大脳に生じるRELA型と呼ばれる上衣腫は、テント上上衣腫の約70%を占め、非常に悪性度の高いグループとされている。また、RELA型の腫瘍では、RELA遺伝子がZFTA遺伝子と融合したもの(ZFTA-RELA融合遺伝子)が高頻度で観察され、近年のモデル動物を用いた研究によりこの融合遺伝子の発がん活性が報告された。このような研究結果をもとに、2016年の世界保健機構(WHO)病理分類では「RELA融合陽性上衣腫」という分類がなされている。
しかし、現在までのDNAメチル化状態を用いた分類でRELA型と診断されていても、実際にはRELA遺伝子が常に陽性というわけではなく、未知の発がんメカニズムの存在が示唆されている。また、ZFTA-RELA融合タンパク質がどのようにがん細胞の増殖を誘導するのか、そのメカニズムには不明な点も多く、治療標的の候補となる分子も十分明らかになっていない。そのため、現在の上衣腫の分類だけではいまだ新しい治療法を提案できず、今回の研究で行われたようなゲノム遺伝学や発生工学を駆使した学際的な研究チームによる、一段と高度な解析が必要とされている。
上衣腫検体の解析から新たに複数のZFTA融合遺伝子を同定
研究グループは、脳腫瘍のDNAメチル化診断とRELA遺伝子の発現の結果が一致しないためにRELA型上衣腫と断定できない脳腫瘍23検体を選び、過去に上衣腫のDNAメチル化分類で報告した501検体と未発表の507検体と合わせてDNAメチル化を基準としたt-SNEプロットを行った。その結果、RELA型上衣腫のグループの周りに4つのサテライトグループが発見され、解析した23検体のうち18検体がこのサテライトグループに属することが明らかになった。特に、これらのサテライトグループ(グループ1〜4)はそれぞれ脳腫瘍のDNAメチル化診断の結果において特徴的であり、グループ1は100%、グループ2は約半数の51.1%がRELA型上衣腫と診断されるものの、グループ3、4は上衣腫とは診断されなかった。
次に、これらのサテライトグループがどのような遺伝子を発現しているのかを調べるために、サテライトグループに分類された48検体のRNAシーケンスあるいはDNAパネルシーケンスを実施。すると、以前の研究で報告されていたZFTA-RELA融合遺伝子はグループ1と3で確認された一方、グループ2と4ではZFTAがMAML2やMAML3、NCOA1やNCOA2と融合した新しい複数の融合遺伝子が2検体以上で発見された。
GLI2の機能抑制が治療に効果的である可能性、モデル動物で
研究グループは、これらの融合遺伝子が腫瘍形成に与える影響についてモデル動物を作出して解析を行い、いずれの融合遺伝子産物も脳に腫瘍を誘発する活性をもつことを明らかにした。そこで働くがんシグナルとして他の脳腫瘍や基底細胞がんで細胞増殖を担う分子であるGLI2が主要な原因因子であることも突き止めた。
さらに、腫瘍モデル動物の生体内でGLI2の機能阻害剤として知られる三酸化ヒ素(ATO、製品名:トリセノックス)を投与することで、腫瘍進展が抑制される効果が確認された。これらの結果からC11orf95融合遺伝子をもつ脳腫瘍に対してGLI2の機能を抑制することが、治療に効果的である可能性が証明された。
WHO分類「C11orf95(ZFTA)融合陽性上衣腫」に
今回の研究で、C11orf95の機能を分子レベルで初めて解明したことから、C11orf95は「ZFTA(Zinc Finger Translocation Associated)」と改名され、これらの融合遺伝子をもつ上衣腫は最新のWHOの病理分類に影響を与え、「C11orf95(ZFTA)融合陽性上衣腫」と命名されることになった(以降、C11orf95はZFTAと記述)。
研究グループは、「グローバルな医学的NCNP貢献に加え、将来的には、今回発表したGLI2遺伝子がヒトZFTA融合陽性上衣腫の分子診断マーカーとして役立つだけでなく、有望な治療標的となることが期待される」と、述べている。
▼関連リンク
・国立精神・神経医療研究センター(NCNP) トピックス