医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > IL-11陽性細胞が「大腸がん再発」に関与することをマウスで確認-東邦大ほか

IL-11陽性細胞が「大腸がん再発」に関与することをマウスで確認-東邦大ほか

読了時間:約 2分59秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年04月23日 AM11:00

大腸がんの予後とIL-11の発現との関係は不明だった

東邦大学は4月16日、IL-11陽性細胞で高発現している一群の遺伝子発現が、ヒト大腸がんの再発率と関係していることを明らかにしたと発表した。これは、同大医学部生化学講座の仁科隆史助教、中野裕康教授、順天堂大学の多田昇弘先任准教授、八木田秀雄先任准教授、東海大学の大塚正人教授、東京理科大学の松島綱治教授、西山千春教授、金沢大学がん進展制御研究所の大島正伸教授、ミシガン大学の猪原直弘准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより

日本における大腸がんは食事の欧米化に伴って増加し、死亡数は男性では3番目、女性では1番目となっている。このような状況で、大腸がんの早期発見や有効な治療法の開発は喫緊の課題であると考えられる。がん細胞の増殖・進展は、がん細胞の力だけでは不十分で、その周囲に存在するがん間質細胞との相互作用が重要であることがわかっている。それらの細胞の中には、免疫系の細胞である腫瘍随伴マクロファージや、がんに対する免疫を阻害するような制御性T細胞が存在する。さらに、がんの促進に線維芽細胞も関与することが知られており、それらは腫瘍随伴線維芽細胞(Cancer-associated fibroblast:CAF)と総称されている。しかし、免疫細胞と比較してCAFで特異的に発現している分子の情報が不足していることから、生体において、それらがどのような特性をもった集団なのかについては不明点が多くあった。

一方で、研究グループは、今回注目したIL-11と呼ばれるサイトカインは活性酸素により発現が誘導され、肝細胞の増殖を誘導することを報告していた。また、他の研究グループからは、ヒトおよびマウスの胃がんや大腸がんでIL-11の発現が亢進していることが報告されていた。さらに、IL-11の機能を阻害することでマウスの大腸がんや胃がんが縮小することも報告されており、IL-11を標的とした大腸がんの治療の可能性が示唆されている。しかし、これまでの報告ではIL-11を産生する細胞がどのような細胞なのかは明らかにされておらず、大腸がんの予後とIL-11の発現との関係についても不明だった。

IL-11陽性細胞は通常ではほとんど存在せず、大腸炎や大腸がんの進展に伴い大腸間質に出現

研究グループは、まず、どのような細胞がIL-11を産生するかを明らかにするために、IL-11の発現を蛍光タンパク質EGFPでモニタリングできるIL-11レポーターマウスを作製した。IL-11の発現量は通常環境下では精巣などの一部の臓器を除き非常に少なく、今回注目した大腸においてもEGFP陽性細胞は検出できなかった。一方で、IL-11レポーターマウスを用いて炎症誘発大腸がんモデルやヒト家族性大腸腺腫症のモデルマウスを作製して腫瘍部を解析したところ、大腸がんの間質を埋めるような形でIL-11陽性細胞が出現してくることが組織学的な解析から示された。また、フローサイトメーターを用いた解析により、大多数のIL-11陽性細胞は線維芽細胞であることが明らかになった。

さらにIL-11陽性細胞の特徴を明らかにするため、IL-11陽性の線維芽細胞とIL-11陰性の線維芽細胞で発現している遺伝子をRNA-seq解析を用いて網羅的に解析したところ、IL-11陽性細胞では約350個の遺伝子が高発現し、これらの遺伝子の中には組織修復や細胞増殖を制御する遺伝子が含まれることが判明。また、IL-11陽性細胞は放出するIL-11により、周囲の腫瘍細胞だけでなく、自分自身も活性化させている可能性が示唆された。

加えて、ヒト大腸がんのデータベースを用いた解析から、腫瘍におけるIL-11の発現は大腸がんの再発とは無関係なものの、IL-11陽性細胞で発現の高い一群の遺伝子と大腸がんの再発には有意な正の相関があることが明らかとなった。

IL-11ではなく、IL-11陽性細胞を標的としたがん治療が有用となる可能性

ヒト大腸がんや胃がんではIL-11が高発現し、発がんモデルマウスではIL-11受容体に対する阻害剤処置やIL-11受容体遺伝子の欠損により、がんが縮小することが報告されている。今回の解析から、IL-11は腫瘍形成を促進するものの、大腸がんの予後不良因子ではない可能性が示唆された。また、IL-11陽性細胞はIL-11だけでなく他の増殖因子を産生することや、IL-11陽性細胞で発現の亢進している一群の遺伝子と大腸がんの再発が正に相関したことから、IL-11ではなく、IL-11陽性細胞を標的としたがん治療が有用となる可能性が示唆された。

「今後は、IL-11陽性細胞で高発現しているどのような遺伝子が大腸がんの再発に関与しているかを解析していく必要があると考えられる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大