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アトピー性皮膚炎、IL-31産生抑制の低分子化合物を開発-九大ほか

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2021年04月16日 AM11:15

IL-31の産生に転写因子EPAS1が重要な役割

九州大学は4月15日、アトピー性皮膚炎の主要なかゆみ惹起物質IL-31の産生を抑制する低分子化合物を世界に先駆けて開発したと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授、宇留野武人准教授、國村和史特任助教、同大大学院医学系学府の上加世田泰久大学院生、同大大学院医学研究院の古江増隆教授、東京大学大学院薬学系研究科の金井求教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に掲載されている。


画像はリリースより

アトピー性皮膚炎は国民の7~15%が罹患しているとされ、そのかゆみをコントロールするための創薬ニーズは高い。これまで、かゆみ研究はヒスタミンを中心に進んできたが、アトピー性皮膚炎のかゆみの多くは抗ヒスタミン剤(H1ヒスタミン受容体遮断薬)では抑制されないことから、別のかゆみ物質の存在が示唆されてきた。

このような中、アトピー性皮膚炎と関連した新しいかゆみ物質として注目されているのがIL-31だ。IL-31は主にヘルパーT細胞から産生され、末梢神経と脊髄を介して脳にかゆみ感覚を伝えるが、IL-31の産生制御機構そのものは不明だった。

先行研究より、福井主幹教授らは、分子DOCK8がないヒトやマウスにおいてIL-31の産生が亢進し、重篤なアトピー性皮膚炎を自然発症することに着目。そのヘルパーT細胞で発現する遺伝子を解析することで、IL-31の産生に転写因子EPAS1が重要な役割を演じることを明らかにした。EPAS1は転写因子ARNTと会合して低酸素応答を制御することが知られているが、EPAS1によるIL-31の産生誘導にARNTは必要なく、SP1という別の転写因子が関与していた。以上より、EPAS1はIL-31の産生を抑制するための創薬標的になると考えられた。

ヘルパーT細胞IL-31産生を選択的に抑制する「IPHBA」

今回の研究では、東京大学創薬機構より提供された9,600個の化合物を対象にEPAS1-IL-31経路を標的としたスクリーニングを実施。その結果、4個のヒット化合物のうちIPHBAと命名した化合物では、T細胞の生存性を損なうことなく、2.5μMという比較的低用量でDOCK8欠損マウスのヘルパーT細胞におけるIL-31の遺伝子発現を抑制した。

一方、IPHBAは、低酸素応答やIL-2/IL-4といった他のサイトカインの遺伝子発現には影響しなかった。同様の結果は、IL-31とIL-2の産生をタンパク質レベルで測定した場合にも認められた。以上より、IPHBAはヘルパーT細胞におけるIL-31産生を選択的に抑制する化合物であることが明らかとなった。

マウスへIPHBA投与、ヘルパーT細胞の移入による掻破行動を抑制

IL-31タンパク質を大量に産生することができるヘルパーT細胞をマウスに移入すると、掻破行動(引っかき行動)が惹起される。このマウスにIPHBAを100mg/kgで経口投与すると、ヘルパーT細胞の移入による掻破行動が抑制された。

次に、IPHBAの作用機序を突き止めるためクロマチン免疫沈降法を用いて解析。EPAS1を含む一部の転写因子は、タンパク質複合体を形成することでDNA上のプロモーター領域に結合し、転写活性を調節することが知られている。そこで、EPAS1とSP1の両転写因子に着目したところ、IPHBAを添加するといずれの転写因子もIL-31プロモーター領域への結合が弱まることを見出した。

また、EPAS1とSP1は複合体を形成するが、IPHBAはその会合を濃度依存的に抑制することもわかった。これらのことから、IPHBAはEPAS1とSP1の会合を抑制することで、IL-31プロモーター領域への両転写因子のリクルートメント(動員)を阻害し、IL-31の遺伝子発現を抑制していることが示唆された。

アトピー性皮膚炎患者のヘルパーT細胞、IPHBA添加でIL-31産生抑制

以上の結果はマウスモデルを使った実験であるため、ヒトにも応用できるかどうか検証する必要がある。そこで研究グループは、アトピー性皮膚炎患者の協力を得て、血液からヘルパーT細胞を単離し、IPHBAの評価を実施。アトピー性皮膚炎を発症していない人に比べ、アトピー性皮膚炎患者のヘルパーT細胞は大量にIL-31を産生していたが、IPHBAの添加によってその産生が抑制されることを確認した。IPHBAは、免疫応答全般に重要なIL-2の産生には影響を与えなかったことから、免疫抑制作用の少ない治療薬シーズになり得ることが示唆された。

最後に、IPHBAの構造をベースに約200の類縁化合物を合成し、それらの構造活性相関を取得。その結果、IL-31の遺伝子発現をより強く抑える化合物の開発に成功したという。

アトピー性皮膚炎のかゆみを根元から絶つ新規治療薬に期待

IL-31の発見に伴い、アトピー性皮膚炎の治療の選択肢も広がりつつある。今回、研究グループは、ヘルパーT細胞によるIL-31の産生を選択的に抑制できる低分子化合物として、IPHBAを発見した。

IPHBAをリード化合物として開発を進めることで、アトピー性皮膚炎のかゆみを根元から絶つ新たな治療薬となることが期待される、と研究グループは述べている。

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